世界一きれいな国にグラフィティが増えている——スイスの落書き事情と罰金
清潔なイメージのスイスで、チューリッヒやバーゼルのグラフィティが増加している。高額な罰金制度と、アートとして認める動きの両面。
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チューリッヒ中央駅の裏手、Langstrasse(ラングシュトラッセ)周辺を歩くと、壁一面のグラフィティに出くわす。スイスのイメージとは全く合わない光景だ。
スイスは清潔な国だ。ゴミのポイ捨てには罰金がある。リサイクル率は50%を超える。しかし落書き(Sprayerei)の件数はチューリッヒ市だけで年間約5,000件に達し、清掃費用は年間CHF 600万(約10.2億円)を超える。
罰金は高い
スイスの刑法では、落書きは「器物損壊(Sachbeschädigung)」に該当し、最大CHF 10,000(約170万円)の罰金または禁固刑が科される。現行犯で逮捕されなくても、監視カメラの映像から特定されるケースが増えている。
チューリッヒ市は専門の「Graffiti-Polizei」を設置し、常習犯のスタイルをデータベース化して追跡している。スプレー缶の販売時に身分証明書の提示を求める小売店もある。
アートとして認める動き
一方で、バーゼルはArt Basel(アートバーゼル)の開催地でもあり、ストリートアートに対して比較的寛容だ。Klybeck地区では、建物のオーナーがアーティストに壁を提供する「Legal Wall」が複数存在する。
チューリッヒでも、SBB(スイス連邦鉄道)がアーティストに列車の車両を合法的にペイントさせるプロジェクトを実施したことがある。「壊されるくらいなら、管理下で描かせる」という合理的な判断だ。
きれいさの裏側
スイスの都市が清潔に見えるのは、汚れないからではない。汚れを即座に消す仕組みがあるからだ。チューリッヒ市のGraffiti-Entfernung(落書き除去)チームは、通報から48時間以内に清掃する体制を敷いている。
落書きが描かれた直後に消すことで、「ここは管理されていない場所だ」というシグナルを出さない。これは犯罪学の「割れ窓理論」をそのまま実践している。
在住者として気をつけること
賃貸物件の外壁に落書きされた場合、修繕費は通常Hausverwaltung(管理会社)が負担する。ただし、建物の共益費(Nebenkosten)に落書き清掃費が上乗せされることはある。
自分の子供がスプレーで落書きをした場合、親の賠償責任(Haftpflicht)が問われる。スイスではHaftpflichtversicherung(個人賠償責任保険)への加入が事実上必須で、年額CHF 100〜200(約17,000〜34,000円)程度。落書きの損害賠償だけでなく、日常生活での事故全般をカバーする。
きれいに見える街は、きれいを維持するために常にコストを払い続けている。罰金、清掃費、保険料——その構造を知ると、見た目のきれいさの裏にある仕組みが見えてくる。