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スイス人のユーモアは声を出さない——Understatementという笑いの作法

スイス人のジョークは控えめで、声を上げて笑わない。ドイツ・フランス・イタリア系で異なる笑いの文化と、在住日本人が「面白い」を見逃さないためのヒント。

2026-05-22
ユーモア文化コミュニケーション社会在住者

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スイス人は面白いことを言う。ただし、声を出さない。

ドイツ人のジョークは「今から面白いことを言います」というフレームが付いてくる。アメリカ人のジョークは笑い声がセットで付属する。スイス人のジョークには何も付いてこない。真顔で言い、真顔で受け取られ、30秒後に「あれ、今の面白かったな」と気づく。

Understatementの文化

スイスのユーモアはUnderstatement(控えめな表現)を基盤にしている。大げさに言わない。感情を増幅しない。事実を少しだけずらすことで、聞き手に「あれ?」と思わせる。

たとえば、嵐の翌日に同僚が「昨日の天気、なかなか活発でしたね(Das Wetter war gestern recht lebhaft)」と言う。「活発」で済む嵐だったら誰も困らない。この温度差がスイスの笑いだ。

日本語の皮肉と似ている部分もあるが、決定的な違いがある。日本の皮肉には批判の含みがある。スイスのUnderstatementには批判がない。ただ「大げさに言うのは品がない」という美意識がある。

言語圏で変わる笑い

スイスドイツ語圏はドライで静か。フランス語圏(ロマンド)は少しウィットが効き、カフェでの軽口が増える。イタリア語圏(ティチーノ)はさらに表情豊かで、イタリア的な身振りが加わる。

同じスイス人でも、チューリッヒとジュネーブとルガーノでは「何が面白いか」の基準が違う。チューリッヒで通用する乾いたジョークは、ルガーノでは「冷たい人」に見えることがある。

日本人がスイスの笑いに慣れるまで

最初の数ヶ月は「スイス人は真面目すぎる」と感じるかもしれない。しかし半年も住むと、会議中の一言、スーパーのレジでの会話、隣人の挨拶の中に、微量のユーモアが含まれていることに気づくようになる。

コツは、相手の言葉を額面通りに受け取らないことだ。「少し遅れます」は30分遅れる。「なかなか面白い映画でした」は最高傑作だったことを意味する。この反転構造を読み取れるようになると、スイスの日常がかなり面白くなる。

笑いの閾値が低い国と高い国がある。スイスは閾値が高い。だからこそ、その閾値を超えた瞬間の笑いは深い。

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