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スイスの中のイタリア——ティチーノ州はなぜ「忘れられた南」と呼ばれるのか

スイス南部のティチーノ州はイタリア語圏で、気候も食文化も北部と全く異なる。チューリッヒから2時間で「別の国」に着く不思議な構造。

2026-05-28
ティチーノイタリア語ルガーノ地域格差文化

この記事の日本円換算は、1CHF≒170円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CHF)の金額を基準にしてください。

チューリッヒから電車で2時間。ゴッタルドトンネルを抜けた瞬間、車窓の景色が変わる。灰色の空が青に変わり、針葉樹がヤシの木に替わり、駅のアナウンスがドイツ語からイタリア語になる。

ティチーノ州(Ticino)はスイスの最南端に位置するイタリア語圏だ。面積はスイス全体の約7%、人口は約35万人で全人口の4%にすぎない。連邦議会でのイタリア語話者の影響力は構造的に小さい。

北部との違い

ティチーノはスイスであってスイスではない、と住民自身が言う。

項目チューリッヒ(北部)ルガーノ(ティチーノ)
気候冬は霧、夏は涼しい地中海性、冬も温暖
昼食30分でサンドイッチ1時間半のパスタ+エスプレッソ
約束の時間1分遅刻で謝る15分は誤差
主要言語スイスドイツ語イタリア語(ティチーノ方言あり)

冗談のように見えるが、在住者の実感に基づいた表だ。北部のスイス人がティチーノに来ると「ここは本当にスイスか?」と驚く。

経済的な非対称

ティチーノの平均給与はスイスで最も低い。中央値でCHF 5,400/月(約918,000円)程度で、チューリッヒ州の約CHF 7,000/月(約1,190,000円)と比べると約23%低い。

原因の一つは、イタリアからの越境通勤者(Frontalieri)だ。約7万人のイタリア人が毎日国境を越えてティチーノで働いている。イタリアの賃金水準でも十分に生活できる彼らの存在が、ティチーノの賃金を抑制しているとされる。

なぜ「忘れられた」のか

連邦レベルの政治はドイツ語とフランス語で動く。イタリア語は公用語の一つだが、連邦閣僚7人のうちイタリア語圏出身者は0〜1人が通常だ。メディアもSRF(ドイツ語)とRTS(フランス語)が主流で、RSI(イタリア語)の視聴者数は圧倒的に少ない。

ティチーノの住民は、この周縁性を自覚している。しかし同時に、アルプスの南側にいることの恩恵——温暖な気候、ゆったりした生活リズム、イタリア文化の香り——を手放す気はない。

スイスという国は、4つの言語を話す人々が一つの連邦を構成する実験だ。ティチーノはその実験の、最も難しいパーツかもしれない。

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