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ランツゲマインデ:野外で手を挙げて国を動かす、スイス最古の民主主義

スイスのアッペンツェル・インナーローデン州では、今も広場に集まって挙手で法律を決める「ランツゲマインデ」が行われている。デジタル時代に残る直接民主主義の原型を紹介する。

2026-06-01
ランツゲマインデ直接民主主義スイス政治アッペンツェル

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毎年4月の最終日曜日、スイスのアッペンツェル・インナーローデン州の中心広場に数千人が集まる。正装した市民たちが挙手することで、法律を可決し、役員を選出する。これがランツゲマインデ(Landsgemeinde)——野外議会だ。

ヨーロッパの民主主義の中で最も古い形式の一つとして、700年以上の歴史を持つ(推定、出典:アッペンツェル・インナーローデン州公式記録)。

手を挙げれば1票

参加資格はその州に住む成人市民だ。市民はコランツゲマインデの書類を手にして広場に出る。議題が読み上げられ、「賛成」「反対」の手が挙がる。議長がその数を目視で判断する。

現代から見ると「それで正確に決まるのか」という疑問が浮かぶが、実際には議題の多くは事前に十分議論されており、劇的に票が割れることは少ない。接戦の場合は別の集計方法を取ることもある(推定)。

何を決めるのか

ランツゲマインデでは州の予算や税率、州の法律改正、役職の選出などが議題になる。スイスは連邦制が強く、州の独自性が高い。アッペンツェル・インナーローデン州は面積171km²(東京23区の3分の1未満)ながら、独自の政治単位として機能している。

グラールスとの違い

かつてスイスの多くの州でランツゲマインデが行われていたが、20世紀に秘密投票(記名投票)への移行が進んだ。「挙手では圧力に負けて本当の意見を言えない」という批判と、人口増加によって広場に全員が入れなくなったことが理由だ。

現在ランツゲマインデを維持するのはアッペンツェル・インナーローデンとグラールス州の2州のみとされる(出典:スイス政府)。グラールスは規模が大きく、テーマや参加者規模が異なる。

「見えない投票」と「見える投票」の哲学

秘密投票制度は「圧力なしに本音を言える」ことを保障する。ランツゲマインデはその逆で「自分の意見を公に表明する」行為だ。どちらを民主主義の本質と見るかは価値観によって異なる。

ランツゲマインデの支持者は「公の場で自分の立場を示す責任感が市民を育てる」と主張する。批判者は「少数意見者が萎縮する」と指摘する。

旅行者として見学する

アッペンツェル・インナーローデン州の広場で行われるランツゲマインデは一般に公開されており、見学できる。スイス在住の日本人や観光客が訪れることもある。「スイスに行ったら一度は見たい場面」として挙げる在住者も多い。

手を挙げることが政治の最終形態として機能している場所——それがスイスの山の中に今も残っている。

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