スイスの投票率は45%——直接民主制の国で国民が投票に行かない逆説
国民投票が年に4回ある直接民主制の国スイスで、投票率は45%前後にとどまる。その理由と在住外国人の関わり方を解説します。
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スイスは世界で最も民主的な国の一つとされている。国民投票が年に4回、州レベルの住民投票を入れると年に十数回。しかし投票率の平均は45%前後。半数以上が棄権している計算になる。
「投票疲れ」という現象
投票が多すぎるのだ。連邦レベルだけで年4回、各回に複数の議題がかけられる。2024年は計12件の国民投票があった。州や市町村の投票を合わせると、ほぼ毎月何かの投票がある状態だ。
議題も「年金制度改革」から「オオカミの駆除範囲」まで幅広い。すべてを理解して投票するには相当な時間とエネルギーが必要で、結果的に関心のあるテーマだけ投票し、残りはスキップする人が多い。
郵便投票が主流
スイスでは投票所に足を運ぶ人は少数派だ。90%以上が郵便投票を利用する。投票用紙が自宅に届き、記入してポストに投函するだけ。手軽だが、それでも投票率は上がらない。
逆に言えば、郵便投票がなければ投票率はさらに低いだろう。仕組みの利便性と国民の政治参加意欲は別の問題だ。
投票率が跳ね上がるテーマ
とはいえ、テーマによっては投票率が急上昇する。EU加盟に関する投票(1992年)は78.7%を記録した。移民制限やベーシックインカムなど、生活に直結するテーマでは60%を超えることもある。
「すべてに参加しなくても、本当に大事なときだけ声を上げればいい」——これがスイス人の多くが無意識に持っている態度だろう。投票権があること自体が安心感を生み、それが逆説的に低投票率につながっている。
在住外国人と投票権
スイス国籍を持たない在住外国人には、連邦レベルの投票権はない。ただし一部のカントン(ジュネーヴ、ヴォー、ヌーシャテル、ジュラ、フリブール)では、一定期間在住した外国人に市町村レベルの投票権が認められている。
帰化してスイス国籍を取得すれば、当然すべての投票に参加できる。帰化の条件は最低10年の在住(カントンによって短縮あり)、ドイツ語やフランス語の語学力、地域社会への統合度の審査などだ。
「投票しない自由」がある国
日本の選挙で「投票に行かないのは無責任」という声がある。スイスでも同様の議論はあるが、年に何度も投票機会がある国では「今回はパス」が許容される空気がある。
スイスの直接民主制が機能しているのは、投票率ではなく投票権の存在そのものによるのかもしれない。「いつでも意思表示できる」という安全弁があることで、社会の安定が保たれている。投票率45%は民主主義の危機ではなく、成熟した民主主義の一形態だ。