スイス鉄道の絶景ルート——乗るだけで成立する旅の話
氷河急行、ベルニナ急行、ゴールデンパスライン。スイスの絶景鉄道は観光客だけのものではなく、在住者にとっても日常と非日常の境界を溶かす交通手段です。
この記事の日本円換算は、1CHF≒170円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CHF)の金額を基準にしてください。
スイスの鉄道網は総延長約5,300km。国土面積は九州とほぼ同じなのに、その中に380以上のトンネルと800以上の橋が架かっている。山を避けるのではなく、山を貫き、谷を渡ることで鉄道を敷いた。この土木工事の蓄積そのものが、絶景ルートの正体だ。
氷河急行(Glacier Express)
ツェルマット〜サンモリッツ間、約8時間の旅。「世界一遅い急行列車」と呼ばれている。291の橋と91のトンネルを抜けながら、標高2,033mのオーバーアルプ峠を越える。
パノラマ車両の1等席は夏季片道約250CHF(約4.25万円)。2等席は約150CHF(約2.55万円)。予約料が別途かかる。正直に言うと、在住者にとっては「一度は乗るが二度は乗らない」という声も多い。8時間座り続けるのはかなり長い。
ただし窓の外に広がるアルプスの景色は、写真では伝わらないスケール感がある。特にラントヴァッサー橋(Landwasser Viaduct)を通過する瞬間——高さ65mの石造アーチ橋の上から谷底を見下ろす数秒間は、乗った人にしかわからない感覚だ。
ベルニナ急行(Bernina Express)
クール〜ティラーノ(イタリア)間、約4時間。氷河急行より短く、景色の変化が激しい。標高2,253mのベルニナ峠を越えてイタリア側に降りると、気候がアルプスから地中海に変わる。
このルートはレーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線としてUNESCO世界遺産に登録されている。鉄道路線そのものが世界遺産というのは珍しい。2等席で約65CHF(約1.1万円)。
在住者の使い方としては、週末にイタリア側のティラーノまで行き、昼食にパスタを食べて帰ってくるという日帰りプランがある。スイスからイタリアに電車で4時間——国境を越える感覚が薄いのがヨーロッパの面白さだ。
ゴールデンパスライン(GoldenPass Line)
ルツェルン〜モントルー間、約5時間。湖と山が交互に現れるルートで、氷河急行やベルニナ急行ほどの劇的さはないが、「スイスの典型的な風景」を最も効率よく見られるルートとも言われる。
2022年末にGoldenPass Expressが運行を開始し、乗り換えなしでルツェルン〜モントルーを走破できるようになった。それ以前は途中のツヴァイジンメン(Zweisimmen)で乗り換えが必要だった。1等席約120CHF(約2万円)、2等席約75CHF(約1.3万円)。
在住者が使う絶景ルート
観光列車だけが絶景というわけではない。日常の通勤路線でも、ブリエンツ湖沿いを走るインターラーケン〜ルツェルン間、トゥーン湖が車窓に広がるベルン〜シュピーツ間など、「窓の外を見るだけで気分が変わる」区間がいくつもある。
ハルプタックス(Halbtax、半額カード)を持っていれば、これらの路線を半額で乗れる。年間185CHF(約3.1万円)のハルプタックスは、スイスで鉄道に月1回以上乗る人なら元が取れる。在住者にとってスイスの鉄道は移動手段であると同時に、週末のリフレッシュ装置でもある。