スイス人は年に何回投票するのか:国民投票が多すぎる国の実態
スイスでは年に3〜4回、国民投票が行われる。年金、移民、環境から「動物の角を切ってよいか」まで、あらゆることが国民に問われる。この制度の仕組みと限界を解説する。
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スイスでは連邦レベルの国民投票が年に複数回行われる。2023年は3回の投票日に合計複数の議案が問われた(出典:スイス連邦官房)。その議題の幅は驚くほど広い。最低賃金、住宅政策、EU関係法、オオカミの保護、そして農業のあり方まで。
「なぜそんなことまで国民に聞くのか」という驚きと、「これが民主主義の本来の姿かもしれない」という感覚が交差する。
二種類の国民投票
スイスには主に二種類の制度がある。
イニシアチブ(Volksinitiative): 市民が10万人以上の署名を集めることで、憲法改正を国民投票に付すことができる。どんな内容でも提案できる(ただし国際法違反は除く)。
レファレンダム(Referendum): 議会が可決した法律に対し、5万人以上の署名で国民投票を求めることができる(任意的レファレンダム)。または憲法改正・条約は自動的に国民投票が必要(義務的レファレンダム)。
動物の角レファレンダム
2018年に行われた「牛に角を残す農業への補助金」を問う投票は、国際的に注目を集めた。農家の一人が自費で署名を集め、国民投票に持ち込んだ。農業慣行と動物の権利についての問いを、国民全体が議論する場になった。
結果は否決だったが(54%対46%)、この投票の存在自体が「スイスの直接民主主義が機能している」証拠として語られた。
投票率の問題
国民投票が年に複数回あると、投票率が下がるリスクがある。スイスの連邦国民投票の投票率は40〜60%前後が多い(出典:スイス連邦官房各年統計)。日本の衆議院選挙(50〜70%)と比べると必ずしも高くない。
「投票が多すぎて追いつかない」「政治に詳しくないと判断が難しい議題もある」という声は、スイス国内でも出ている。
少数意見の保護との緊張
多数決による直接民主主義は、少数者の権利を損ないうる。スイスでは過去に「ミナレット(モスクの尖塔)の建設禁止」(2009年可決)や「イスラム教徒のヴェール禁止」(2021年可決)などの投票が行われ、人権的観点から国際的な批判を受けた(出典:国連人権機関声明等)。
直接民主主義が多数者の専制につながりうるというリスクは、スイスの制度設計における恒常的な課題だ。
在住外国人は投票できない
スイスの国民投票に参加できるのは原則としてスイス国籍者だ。外国籍の永住者がどれだけ長くスイスに住んでいても、連邦レベルの投票権はない。
一部の州や市では外国籍者に州・市レベルの投票権を与えている(ヴォー州など)が、全国的ではない。「住民として税を払い生活しているのに投票権がない」という問いは、スイス社会での移民議論の一角を占めている。
投票が多すぎて疲れると感じるか、それとも自分の声が届く感覚を持てるか——スイスの直接民主主義は、住む人によって全く異なる体験をもたらす。