SBBが3分遅れると謝罪する国——スイスの鉄道と「遅延」の定義が日本と違う理由
スイス連邦鉄道SBBの定時運行率は約90%。日本のJRと比べると低いが、スイス人は自国の鉄道に強い誇りを持つ。遅延の定義、補償制度、鉄道文化の構造を解説。
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SBB(スイス連邦鉄道)の定時運行率は約90%。日本のJR東日本が97%以上であることを考えると、スイスの鉄道は「遅れる」部類に入る。だがスイス人に「電車がよく遅れますね」と言ったら、心底傷ついた顔をされるだろう。
スイス人にとって鉄道は国家のアイデンティティだ。時計と並んで「正確さ」の象徴であり、SBBの3分遅延はニュースになる。日本の感覚で言えば、新幹線が10秒遅れて車掌がアナウンスするのに近い。
遅延の定義が違う
SBBが「定時」と見なすのは、到着が予定時刻から3分以内の場合だ。3分以上の遅れが「遅延」としてカウントされる。
JR東日本の定義では1分以上が遅延。この定義の差を知ると、SBBの90%とJRの97%を単純に比較することが不公平だとわかる。JRの基準をSBBに当てはめれば、SBBの定時率はさらに下がる。
逆に、SBBの基準をJRに当てはめれば、JRの定時率は99%を超えるだろう。数字は定義に依存する。
遅延時の補償
SBBには遅延補償の仕組みがある。60分以上の遅延で、チケット代の25%がクレジットとして返還される。120分以上で50%。EU域内の列車(DB、SNCF等)の規定と概ね同様だ。
申請はSBBのアプリまたはサービスセンターで行う。ただし定期券(GA、Halbtax)保持者への補償はより限定的で、システム障害レベルの遅延でないと適用されにくい。
鉄道が社会インフラ以上のものである国
スイスの鉄道網は総延長約5,300km。国土面積が九州と同程度であることを考えると、密度は高い。ほぼ全ての集落が鉄道またはポストバスでカバーされている。
高速道路が国家の血管であるアメリカ、高速鉄道が技術の象徴である日本。スイスの鉄道はそのどちらとも違う。山を貫き、谷を渡り、4つの言語圏をつなぐ鉄道は、多言語・多文化国家が「一つの国である」ことの物理的な証明だ。
SBBが3分遅れて謝るのは、効率の問題ではない。自分たちが何者であるかを定義する装置が狂うことへの不安だ。
日本から来た人間にとって、この感覚は理解しやすいはずだ。