スイス人の4人に1人が所属する「Verein」——ボランティアでも組織でもない第三の集団
スイスには10万以上のVerein(協会)があり、人口の約25%が何らかのVereinに所属している。消防団から読書会まで、スイス社会の見えない骨格を解説。
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スイスには推定10万以上のVerein(フェアアイン)がある。人口約880万人の国に10万団体。ざっくり計算すると、88人に1つのVereinが存在する。
Vereinは日本語に訳しにくい。「協会」「クラブ」「同好会」のどれとも少し違う。スイスの民法(ZGB)に基づく非営利法人であり、最低2人で設立でき、登記すら任意だ。消防団、合唱団、射撃クラブ、ヨーデル協会、読書会、猫の保護団体——あらゆるものがVereinの形をとる。
なぜVereinが多いのか
スイスの政治構造がその答えだ。連邦制・直接民主制のスイスでは、国家が担う公共サービスの範囲が限定的で、地域住民が自発的に組織をつくってサービスを提供してきた歴史がある。
消防もその一つだ。スイスの多くの自治体では、消防はプロの消防士ではなく、VolunteerのVereinメンバーが担っている。建物の火災報知器が鳴ると、近隣の消防Vereinメンバーのスマホにアラートが飛び、日常業務を中断して駆けつける。
これはボランティアとも違う。義務ではないが、地域社会の一員としての暗黙の期待がある。参加しない自由はあるが、参加しないことは「この地域の一員ではない」というシグナルになりうる。
外国人とVerein
在住外国人にとって、Vereinへの参加はスイス社会に入り込む数少ない入口だ。職場では距離を保つスイス人が、Vereinでは驚くほど打ち解ける。共通の活動——合唱でも登山でもワインの試飲でも——を介した関係は、「同僚」や「隣人」よりも深くなることがある。
チューリッヒ日本人会、ジュネーブ日本人会もVereinの形態をとっている。ただし日本人コミュニティの中だけで完結すると、スイス社会との接点が限られたまま数年が過ぎてしまう。
地元のスポーツVerein、音楽Verein、環境保護Vereinに1つ参加してみると、「スイス人は冷たい」という印象が変わるかもしれない。彼らは冷たいのではなく、Vereinの外で親しくなる文化がないだけだ。
人間関係にも設計図がある。スイスのそれはVereinという形をしている。