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チューリッヒのスタートアップ事情|銀行の国がなぜテック企業を惹きつけるのか

スイス・チューリッヒのスタートアップエコシステムを解説。ETH発の技術系スタートアップ、投資環境、外国人起業家のビザ事情まで。

2026-05-19
スイスチューリッヒスタートアップテック起業

この記事の日本円換算は、1CHF≒170円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CHF)の金額を基準にしてください。

スイスは金融と時計の国――そう思っている人が多い。しかし人口あたりのスタートアップ数で見ると、スイスはヨーロッパ上位に入ります。その中心地がチューリッヒです。

ETHという巨大な発射台

チューリッヒ工科大学(ETH Zürich)は、Googleの共同創業者の母校としても知られますが、それ以上に重要なのは大学発スピンオフの数。毎年30社以上がETHから生まれ、その生存率は5年後で約80%。シリコンバレーの平均生存率が約50%であることを考えると、異常に高い数字です。

理由は明快で、ETHが技術的な支援だけでなく、スイス国立科学財団(SNF)やInnosuisseを通じた資金的な後ろ盾も提供しているからです。

高コストは本当にハンデか

チューリッヒのオフィス賃料はCHF 500〜800/㎡/年(約85,000〜136,000円)。ロンドンやパリと同水準で、ベルリンの2倍以上です。しかし、スイスの法人税率は連邦・州・市合計で約12〜14%。アイルランド並みの低さが、高い家賃をある程度相殺します。

加えて、チューリッヒには世界中から集まった高度人材がすでにいる。採用コストと時間を考えると、「高いけど採用しやすい」というトレードオフが成立します。

外国人が起業するには

スイスで外国人が会社を設立する場合、GmbH(有限会社)の最低資本金はCHF 20,000(約340万円)。設立には公証人の認証が必要で、手続きにかかる費用はCHF 3,000〜5,000(約51万〜85万円)程度です。

EU/EFTA国籍でなければ、就労ビザ(B許可証)が前提になります。「自分の会社で自分を雇用する」形式でビザを取得するケースが多いですが、カントンの労働局が「スイス人の雇用を圧迫しない」と判断する必要がある。技術系や研究系のスタートアップは比較的通りやすいと言われています。

フィンテックとバイオテックの二本柱

チューリッヒのスタートアップは、フィンテック(金融技術)とバイオテック・メドテックに強く偏っています。金融規制の実験場としてFINMAがレギュラトリー・サンドボックスを設けていること、バーゼルの製薬大手(ロシュ、ノバルティス)が近接していること、この2つの地理的・制度的条件が分野を決定づけています。

銀行の国がテック企業を惹きつける理由は、「安定した制度」と「低い法人税」と「大学の技術力」の三角形。華やかさはシリコンバレーに譲りますが、堅実に生き残るスタートアップを生む土壌としては、世界でも屈指の環境です。

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