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中国人が海外旅行をやめている——「内循環」時代の国内観光と愛国消費の交差点

中国の海外旅行者数はコロナ前の水準に戻っていない。パスポート更新率の低下、内循環政策、愛国消費の台頭。在住外国人の視点から中国の旅行文化の変化を読む。

2026-05-22
旅行内循環経済消費社会

この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。

2019年、中国人の海外旅行者数は約1.55億人だった。世界最大の海外旅行市場だ。2024年、その数字はまだコロナ前の70〜80%にとどまっている。残りの20〜30%——約3,000万〜4,500万人——は海外に行かなくなった。

3,000万人が行動を変えた。その理由は「コロナが怖い」ではない。

パスポートの更新が止まっている

中国のパスポート新規発行・更新件数は、2019年の水準に戻っていない。「海外に行く予定がないから更新しない」人が増えている。パスポートを持っていない中国人は全人口の約85%とされ、そもそも海外旅行は一部の都市中産階級の行動だった。

その中産階級が、海外旅行から国内旅行にシフトしている。

「内循環」と消費のナショナリズム

2020年に提唱された「双循環」戦略——国際循環に依存せず、国内循環(内循環)を主体にする経済モデル——は、消費行動にも影響を与えている。

「国内にも良い場所がある」「なぜ日本やヨーロッパにわざわざ行くのか」という言説がSNSで広がり、国内の観光地が再評価されている。貴州省の黔東南、甘粛省の敦煌、新疆ウイグル自治区の自然——かつてマイナーだった目的地が「中国の隠れた宝石」として注目を集めている。

同時に、国産ブランドを選ぶ「国潮」(国産トレンド)も旅行に波及している。海外の高級ホテルに泊まる代わりに、中国の民宿(民宿)に泊まる。海外で買い物をする代わりに、国産ブランドの服を着る。

旅行の質が変わった

興味深いのは、国内旅行のスタイルも変化していることだ。かつての中国国内旅行は「名所を駆け足で回る団体ツアー」が主流だった。今は個人旅行が増え、「何もしない」「景色を見て過ごす」滞在型が増えている。

雲南省の大理に長期滞在して「デジタルノマド」を名乗る若者、成都でひたすら火锅を食べ歩く旅——日本人が10年前に始めた「暮らすように旅する」スタイルが、中国でも浸透しつつある。

在住外国人への影響

海外旅行者の減少は、在住外国人には直接関係しないように見える。だが国際線の便数減少は、一時帰国の選択肢と価格に影響する。上海〜東京の直行便は回復しているが、地方都市からの国際線はコロナ前より大幅に減便されたままだ。

また「外国人が中国に来る理由」の文脈も変わりつつある。中国人が海外への関心を失うと、外国人の存在が珍しくなり、注目されやすくなる。良くも悪くも。

消費は政治を映す鏡だ。中国人がどこに旅行するかは、経済指標であると同時に、社会のムードを示すバロメーターでもある。

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