中国の戸籍制度「戸口」——同じ国なのに移住できない14億人の見えない壁
中国の戸口(フーコウ)制度は、出生地によって受けられる公共サービスを決定する。農村戸籍と都市戸籍の格差、外国人への影響を解説。
この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。
上海で働く出稼ぎ労働者の子どもは、上海の公立学校に通えないことがある。理由は親の戸口(户口、フーコウ)が上海ではなく、出身地の農村にあるからだ。
中国の戸口制度は、すべての国民を出生地の行政区に紐づける仕組みだ。教育、医療、住宅購入、車のナンバープレート取得——これらの公共サービスへのアクセスは、戸口がどこにあるかで決まる。同じ中国国民なのに、戸口の場所によって受けられるサービスが根本的に異なる。
農村戸籍と都市戸籍
戸口は大きく「農村戸籍(农村户口)」と「都市戸籍(城镇户口)」に分かれる。2020年時点で、農村戸籍を持つ人口は約5億人。彼らが上海や北京で働いていても、戸口上は「農村の人」だ。
都市戸籍がなければ、その都市の公立学校に子どもを入学させるのが難しい。都市の公立病院での医療費負担も異なる。住宅購入にも制限がかかる。
結果として、農村出身の労働者は子どもを故郷の祖父母に預けて出稼ぎに行く。この「留守児童(留守儿童)」は推計約900万人にのぼる。
戸口の移動は可能だが困難
北京や上海の戸口を取得するのは極めて難しい。学歴、納税実績、社会保険の加入期間、住宅購入の有無——複数の条件を満たす「ポイント制」が導入されているが、基準は高い。上海では毎年数万人が申請して、取得できるのは一部だ。
近年は地方都市を中心に戸口制度の緩和が進んでいる。人口300万人以下の都市では、安定した就職先があれば戸口の移動がほぼ自由化された。しかし、北京・上海・広州・深圳の「一線都市」は依然として厳しい制限を維持している。
外国人にはどう関係するか
外国人には戸口はない。しかし、戸口制度の影響は間接的に及ぶ。たとえば、中国人の配偶者がいる場合、配偶者の戸口の所在地によって子どもの教育選択肢が変わる。
また、中国人の同僚やスタッフの事情を理解するうえで、戸口の知識は不可欠だ。「なぜ春節に必ず帰省するのか」「なぜ子どもが地方にいるのか」——これらの行動の背景には、戸口制度がある。
戸口は中国社会を理解するための最も基本的なレンズの一つだ。この制度を知らずに中国で暮らすのは、地図を持たずに知らない街を歩くようなものだ。