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中国の「映える図書館」は本を読む場所ではない——天津浜海図書館とインフラの転用

天津浜海新区図書館のSF的な内装は世界中でバズった。だが地元住民はそこで本を読まない。中国の新型図書館が果たしている本来とは異なる機能を分析する。

2026-05-22
図書館建築文化都市開発デザイン

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2017年に開館した天津浜海新区図書館の写真を見たことがあるだろうか。巨大な球体を中心に、波打つ本棚が天井まで続く。120万冊の蔵書を持ち、建築面積は33,700平方メートル。SNSで「世界一美しい図書館」として拡散された。

だがあの本棚に並んでいるのは、上層部ではアルミパネルに印刷された「本の絵」だ。装飾用であり、手に取って読むことはできない。

図書館は「読書の場所」から何に変わったか

中国では2010年代後半から、デザイン性の高い「新型図書館」が各地に建設されている。北京の国家図書館新館、南京の金陵図書館、広州の広州図書館——いずれも建築賞を受賞するレベルのデザインだ。

しかし利用実態を見ると、来館者の多くは「本を読む」のではなく「写真を撮る」「涼みに来る」「Wi-Fiを使う」ために訪れている。夏のエアコン、冬の暖房、無料のWi-Fi——図書館は「最もコスパの良い公共空間」として機能している。

なぜ「映え」が先行するのか

中国の地方政府にとって、目を引く公共建築は「投資を呼び込む看板」だ。天津浜海新区は港湾開発エリアであり、図書館はその開発区の「文化水準」をアピールするための装置だった。

この論理は、ドバイが超高層ビルを建てる論理と同じだ。建物の中身ではなく、建物の存在自体がメッセージになる。「ここは文化的な場所です」という宣言が、建築のデザインで行われている。

在住者にとっての図書館

在住日本人にとって中国の図書館は、意外と使える空間だ。多くの大型図書館にはパスポートで利用カードを作れる。蔵書は中国語が中心だが、外国語コーナーに英語の書籍がある館も多い。

静かな作業スペースとして使うなら、カフェよりも図書館の方が適している。Wi-Fi、電源、冷暖房が無料で、周囲も静かだ。大学の図書館は外部利用が制限されていることが多いが、公共図書館は基本的に誰でも入れる。

「映える図書館」はSNSのネタとしてだけでなく、在住者の生活インフラとしても価値がある。本を読むために行かなくても、そこが快適な空間であることは確かだ。

建物の設計意図と利用者の実態がずれること——それ自体は世界中で起きている。中国ではそのずれの規模が大きいだけだ。

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