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中国の地下鉄が静かになった——「静音車両」導入と、かつて世界一うるさかった車内の変化

中国の地下鉄にはかつてスピーカーで動画を再生する乗客が大勢いた。2020年代に入り静音ルールが各都市で導入され、車内の音風景が変わりつつある。

2026-05-22
地下鉄マナー都市文化交通社会変化

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2020年以前、中国の地下鉄に乗ると音の洪水が押し寄せてきた。隣の乗客がスマホでドラマを見ている。イヤホンなしで。向かいの乗客は音声メッセージをスピーカーフォンで再生している。その奥では通話中の声が響く。

東京の地下鉄のような静寂は、夢のまた夢だった。だが2020年代に入り、状況が変わり始めている。

静音ルールの広がり

2020年、北京が地下鉄車内での「外放」(スピーカーでの音声再生)を禁止する条例を施行した。上海、広州、深圳、成都が追随。2024年時点で、主要20都市以上が何らかの形で車内の騒音を規制している。

違反者への罰則は都市によって異なるが、北京では最高CNY 200(約4,200円)の罰金が科される可能性がある。ただし実際に罰金を取られたケースは稀で、車内放送やスタッフの注意が主な手段だ。

なぜ「外放」が普通だったのか

日本人から見ると「なぜイヤホンを使わないのか」は素朴な疑問だ。理由は複合的だ。

一つは、スマホが「テレビの代替」として普及したこと。農村部から都市に出てきた出稼ぎ労働者(农民工)にとって、スマホは初めてのパーソナルメディアだ。テレビは家族と見るもの。スマホも同じ感覚で、音を出して見るのが自然だった。

もう一つは、公共空間の「私的利用」に対する許容度の違い。日本では公共空間は「他者への配慮が最優先」だが、中国では「自分の行動の自由が最優先」という価値観が長く支配的だった。

変化の兆し

興味深いのは、若い世代(90后・00后)ほど車内で静かに過ごす傾向があることだ。AirPodsやワイヤレスイヤホンの普及もあるが、それだけではない。都市の「文明度」(文明程度)を意識する層が増えている。

SNSで「地下鉄マナー」に関する投稿がバズるようになり、「外放する人は素質(素养)が低い」という認識が広がっている。上からの規制と下からの意識変化が、同時に進行している。

在住日本人の体感

東京の地下鉄に慣れた日本人にとって、中国の地下鉄の音環境は最初のカルチャーショックの一つだ。ただし最近は「思ったより静かだった」という声も増えている。

とはいえ東京レベルの静寂には程遠い。特にラッシュ時の通話、子どもの騒ぎ声、物売りの声は健在だ。完全な静寂を求めるなら、ノイズキャンセリングイヤホンが最も確実な解決策だ。

社会のマナーは法律で変わるのか、意識で変わるのか。中国の地下鉄は今、その実験場になっている。

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