Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
暮らし・文化

中国の広場ダンスは年金世代の「領土」である——広場舞と都市空間の争い

中国の公園や広場で集団で踊る「広場舞」は、年金生活者の社交・健康維持の場。音量をめぐる住民との対立と、都市空間の使い方の問題を解説。

2026-05-25
広場舞シニア公園社会問題都市

この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。

朝6時の上海、人民広場。スピーカーから大音量の音楽が流れ、50〜70代の女性たちが整然と踊っている。夕方になると別のグループが同じ場所を占拠する。中国全土で推定1億人以上が参加しているとされる「広場舞(グアンチャンウー)」は、世界最大の集団ダンス現象だ。

なぜ踊るのか

中国の定年退職年齢は男性60歳、女性50〜55歳(職種による)。退職後の生活は長い。年金はあるが、趣味のための消費に回す余裕があるとは限らない。広場舞は無料で、運動になり、社交の場になる。

参加者の多くは農村から都市に移住してきた第一世代、または国有企業の元従業員だ。急速な都市化と社会構造の変化の中で、広場舞は彼女たちのコミュニティそのものになっている。

音量戦争

広場舞の最大の問題は音量だ。大型のポータブルスピーカーで音楽を流すため、周辺住民からの苦情が絶えない。2010年代には、住民が広場舞グループに向けて放水した事件や、上階からバケツの水をかけた事件が報道された。

一部の都市では「広場舞音量規制条例」が制定され、夜21時以降のスピーカー使用や、一定デシベル以上の音量が禁止された。しかし執行は難しい。「私たちには踊る権利がある」と主張する高齢者と、「静かに暮らす権利がある」と訴える住民の対立は続いている。

公共空間は誰のものか

広場舞の問題は「マナーの悪い高齢者」という話ではない。中国の都市が急速に開発される中で、住民のための公共空間が十分に確保されなかったことの帰結だ。

マンションの敷地は開発業者のもの、道路は車のもの、商業施設は消費者のもの。残された公園や広場に、行き場のない高齢者が集まる。広場舞は「都市に居場所がない人たちの居場所づくり」という側面がある。

外国人としてこの光景を見たとき、最初は騒々しいと感じるかもしれない。しかし、あのスピーカーの音量の裏には、急速に高齢化する中国社会の構造的な問題が詰まっている。

コメント

読み込み中...