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中国で子育てすると「内巻」に巻き込まれる——教育競争の圧力と脱出口

中国の教育熱は日本の受験戦争を遥かに超える。学区房、課外授業禁止(双減)政策の影響、在住日本人家庭の選択肢を考える。

2026-05-15
教育子育て受験学校内巻

この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。

「内巻(nèijuǎn)」という中国語がある。直訳すると「内向きに巻く」。全員が競争に参加しているのに、誰も抜け出せず、ただひたすらコストだけが上がっていく状態を指す。中国の教育は、この内巻の最も激しい現場だ。

学区房——住所が学歴を決める

中国の公立小学校は学区制だ。良い小学校の学区内に住んでいなければ入学できない。その結果、有名小学校の学区にあるマンション——「学区房(xuéqūfáng)」——の価格が異常に高騰する。

北京の海淀区にある中関村第三小学校(名門小学校)の学区にある築30年のマンションが、1㎡あたり15万CNY(約315万円)以上で取引される。60㎡の古い2LDKが900万CNY(約1.89億円)。物件の価値ではなく「入学権」に金を払っている。

双減政策——塾禁止の衝撃

2021年、中国政府は「双減(双减)」政策を発表した。小中学生向けの学科系課外授業(塾)を大幅に制限するもので、営利目的の塾は新設禁止、既存の塾も非営利への転換を求められた。

この政策で新東方教育(New Oriental)やTALなどの教育大手が株価を90%以上失った。しかし、教育熱が消えたわけではない。

「地下塾」の出現: 正規の塾が禁止された結果、個人の家庭教師やマンションの一室で行う非公式の授業が増えた。費用はむしろ上がった——供給が減って需要が変わらないのだから当然だ。

芸術・スポーツへの転換: 学科系は禁止されたが、音楽・美術・プログラミング・スポーツの習い事は規制対象外。結果、これらの教室が急増し、新たな軍拡競争が始まった。

高考(ガオカオ)——人生を決める2日間

中国の大学入試「高考(gāokǎo)」は、毎年6月に行われる全国統一試験だ。2025年の受験者は約1,342万人。この2日間の試験結果で、どの大学に入れるかがほぼ決まる。

高考当日、試験会場の周辺道路は交通規制され、近隣の工事は中断し、親が校門の外で何時間も待つ。国を挙げての一大イベントだ。

清華大学や北京大学に入れれば人生が開ける——という信念が、幼稚園からの教育投資を正当化している。

在住日本人家庭の選択肢

日本人駐在員の家庭は、主に3つの選択肢がある。

日本人学校: 北京、上海、広州、大連など主要都市にある。日本のカリキュラムに沿った教育を受けられ、帰国後の学校編入もスムーズ。

インターナショナルスクール: 英語環境での教育。学費は年間15万〜30万CNY(約315万〜630万円)と高いが、多国籍の環境で育てたい家庭に選ばれている。

現地校: 中国語の習得には最適だが、教育の競争圧力に巻き込まれる可能性がある。中国語がネイティブレベルでないと授業についていくのが難しい。

「内巻」から降りる人たち

近年、中国の若い親の間で「鶏娃(jīwá、子どもを鞭打って勉強させること)をやめる」という声が増えている。「佛系育児(仏系育児)」——競争に参加せず、子どもの自主性に任せる育て方だ。

ただしこれは、経済的に余裕がある層の選択でもある。一流大学を出なくても家業がある、海外に逃げ道がある——そういう家庭だからこそ「降りる」ことができる。

教育の内巻は中国社会の縮図だ。抜け出せない構造の中で、それぞれが最適解を探している。

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