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出前が30分で届く国で自炊する理由がない——中国フードデリバリーの構造

美団(Meituan)と饿了么(Ele.me)が支配する中国のフードデリバリー。安さの裏にある配達員の労働環境と、自炊文化を失いつつある都市の姿。

2026-05-15
出前美団デリバリー食文化生活

この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。

上海の自宅で美団(Meituan)を開くと、半径3km以内に数百軒の店舗が表示される。牛肉麺15CNY(約315円)、麻婆豆腐定食20CNY(約420円)、日本式カツカレー35CNY(約735円)。注文から平均30分で届く。配送料は3〜5CNY(約63〜105円)。

この環境で自炊する合理的な理由を見つけるのは難しい。

美団と饿了么——2強の構造

中国のフードデリバリー市場は、美団(Meituan)と饿了么(Ele.me、アリババ系)の2社がほぼ独占している。美団のシェアが約65%で圧倒的だ。

両アプリとも操作はシンプルで、地図上で近くの店を探し、メニューを選んで決済するだけ。レビュー・評価システムが充実しているので、初めての店でも当たり外れの判断がつく。

なぜこんなに安いのか

安さの理由は3つある。

人件費: 配達員(外卖骑手)の報酬は1件あたり5〜10CNY(約105〜210円)。時給ではなく件数で稼ぐ仕組みのため、配達員は1日に何十件もこなす。

プラットフォーム補助金: 美団と饿了么はユーザー獲得のために、新規ユーザーや特定の時間帯にクーポンを大量に配布している。20CNYの料理が10CNYで食べられることも珍しくない。

店舗の家賃構造: デリバリー専門の店舗(暗厨房/ゴーストキッチン)は、客席がなく家賃が安い。路地裏の2階に小さな厨房だけ構えて、美団経由で注文を受ける——このモデルが増えている。

配達員の現実

2023年時点で、中国のフードデリバリー配達員は約700万人とされる。その多くは農村部から都市に出てきた出稼ぎ労働者だ。

配達員はプラットフォームに「雇用」されているわけではなく、個人事業主として登録している。社会保険や労災保険が適用されず、交通事故のリスクを自分で負う。配達時間のノルマが厳しく、赤信号を無視して走る配達員のバイクが社会問題になっている。

2021年以降、中国政府は配達員の労働条件改善に向けた規制を強化している。最低報酬の保障、配達時間のアルゴリズム開示、労災保険の義務化——しかし実効性には議論がある。

在住日本人の使い方

正直に言えば、ほぼ毎日使っている在住日本人は多い。

朝食: 豆浆(豆乳)と油条(揚げパン)を注文。5CNY(約105円)。

昼食: 職場の同僚と一緒に「拼单(共同注文)」して配送料を割る。1人あたり20〜30CNY。

夕食: 疲れた日は火鍋セットをデリバリー。肉・野菜・スープセットで80〜150CNY(約1,680〜3,150円)。2人分は余裕。

日本食が恋しくなった時も、日式ラーメン、寿司、おにぎり専門店がデリバリーで頼める。味は店によるが、選択肢の多さは圧倒的だ。

自炊文化の変化

フードデリバリーの普及により、若い世代の自炊率は下がっている。一人暮らしの若者のアパートにはキッチンがあっても調理器具がない——という話を聞くことが増えた。

一方で「健康志向」から自炊に回帰する動きもある。食品安全への不安(油の質、添加物、食材の鮮度)から、「自分で作った方が安心」と考える層が一定数いる。

中国のフードデリバリーは、便利さと社会課題が同居している。30分で届く食事の裏に、時速何キロで走る配達員がいるのか——注文ボタンを押す時にふと考えることがある。

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