シェア自転車の墓場——中国の過剰投資が生んだ都市の廃墟
2017年前後に中国で爆発的に増えたシェア自転車は、過剰競争と資金ショートで大量の廃棄車両を生んだ。ofo・Mobikeの盛衰と、都市に残された「自転車の墓場」の現在を解説。
この記事の日本円換算は、1CNY≒21円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CNY)の金額を基準にしてください。
2018年、中国各地の郊外に異様な光景が広がっていた。サッカーグラウンド数面分の空き地に、黄色・オレンジ・青・緑の自転車が山のように積み上げられている。ドローンで撮影された写真が世界中のメディアで報じられた。「自転車の墓場(共享单车坟场)」だ。
何が起きたのか
2015年頃からドックレス(ステーションなし)のシェア自転車サービスが中国で急成長した。Mobike(摩拜)とofo(小黄車)の2強を筆頭に、一時は70社以上が参入した。
ベンチャーキャピタルからの投資額は合計で100億元(約2,100億円)を超えたとされる。各社は市場シェアを獲るために大量の自転車を都市に投入した。上海だけで一時170万台以上の自転車が路上に溢れた。
過剰投入の論理
なぜそこまで大量に投入したのか。当時のシェア自転車ビジネスの本質は「ライドそのものの収益」ではなく「デポジット(預かり金)の運用」だった。
ユーザーはアプリ登録時にCNY 99〜299(約2,079〜6,279円)のデポジットを預ける。1,000万人のユーザーから平均CNY 200を集めると20億元(約420億円)のキャッシュプールができる。この資金を投資に回すのが実質的なビジネスモデルだった。
市場シェア=ユーザー数=デポジット総額。だから各社は利用単価CNY 0.5〜1.0(約10〜21円)の赤字を垂れ流してでも自転車を投入し続けた。
崩壊
2017年後半から中小の事業者が資金ショートで相次ぎ撤退した。悟空単車、3Vbike、町町単車——創業から1年も持たない企業が続出した。
2018年にはofoがデポジットの返還を停止。1,500万人以上が返金待ちの行列に並ぶ事態になり、北京のオフィス前に物理的な行列ができた。ofoのデポジット未返還額は推計で10億元(約210億円)以上とされる。
Mobikeは2018年にフードデリバリー大手の美団(Meituan)に買収され、ブランドも消滅した。
自転車の墓場のその後
放置された自転車は都市の問題になった。歩道を塞ぎ、河川に投棄され、空き地に山積みにされた。各都市の市政府が撤去・保管・処分の費用を負担する羽目になった。
一部はリサイクルに回されたが、大量の自転車を効率的に解体・再資源化する体制は整っていなかった。アルミフレーム・ゴムタイヤ・電子ロック——素材がバラバラで分別コストが高い。
現在のシェア自転車
2026年現在、中国のシェア自転車市場は美団単車・ハローバイク(哈啰)・滴滴青桔の3社に集約されている。1回の利用はCNY 1.5〜2.5(約31〜52円)程度。
過去の失敗から学び、各都市は投入台数に上限を設けるようになった。事業者は行政の許可を得て台数を管理する方式に変わっている。
在住外国人にとっては、今のシェア自転車は便利な移動手段だ。WeChatまたはAlipayで即座にロック解除でき、地下鉄駅からオフィスまでの「ラストワンマイル」をCNY 1.5で移動できる。かつての狂騒と廃墟を経て、ようやく持続可能な形に落ち着いたと言える。