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監視カメラ6億台の国で暮らす感覚——慣れるのか、麻痺するのか

中国には推定6億台以上の監視カメラがある。顔認証改札、マンションの入口認証、配車アプリの顔確認——監視インフラの中で暮らす日常を描く。

2026-05-15
監視カメラ顔認証プライバシーテクノロジー

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中国に設置されている監視カメラの数は推定6億台以上。人口14億人に対して、約2.4人に1台の計算になる。この数字を聞くと「ディストピアだ」と感じるかもしれない。しかし、実際に暮らしてみると、その印象は少し違ったものになる。

監視は「見えない」形で浸透している

中国で監視を意識する場面は、意外と限られている。街角に目立つ監視カメラが設置されてはいるが、それを見て「監視されている」と感じる時間は短い。むしろ、監視は日常の便利さの中に溶け込んでいる。

地下鉄の顔認証改札: 北京や上海の一部駅では、顔認証で改札を通過できる。スマートフォンもカードも不要。顔をかざすだけ。

マンションの入口: 新しいマンション(小区)は顔認証で入口のゲートが開く。鍵もカードも忘れる心配がない。

無人コンビニ: 入店時に顔認証、商品を持って出ればAlipayから自動決済。万引き防止というより、レジ待ちの解消が目的。

治安との関係

中国の都市部の治安は、多くの外国人が驚くほど良い。深夜に女性が一人で歩いても、身の危険を感じる場面は少ない。

この治安の良さに監視カメラが寄与しているのか、それとも他の要因(経済成長、出稼ぎ労働者の管理、重い刑罰)によるのかは、議論が分かれる。しかし「カメラがあるから安全」という認識は中国人の間で広く共有されている。

深圳でスマートフォンを置き引きされた在住外国人が、警察に届け出たところ、監視カメラの映像を追跡して24時間以内に犯人が特定された——というエピソードは珍しくない。

外国人はどこまで対象か

外国人も中国の監視インフラの対象だ。ビザ申請時の顔写真、入国時の指紋採取、ホテルのチェックイン時のパスポートスキャン——これらのデータはシステムに蓄積される。

ただし、外国人の顔認証精度はまだ完全ではないとされる。中国人向けに最適化されたアルゴリズムは、外国人の顔で誤認識するケースがあるという報告もある。地下鉄の顔認証改札が外国人に対応していない駅もある。

プライバシーの感覚

「中国人はプライバシーを気にしないのか」と聞かれることがある。答えは「気にしている人もいるが、利便性を優先する人が多い」だ。

2021年に施行された「個人信息保護法(個人情報保護法)」は、中国版GDPRとも呼ばれ、データの収集・利用に同意を義務づけた。企業がアプリで過剰にデータを収集することへの反発から生まれた法律だ。

しかし、政府機関による監視については、この法律の適用範囲外とされている。市民のプライバシー保護と国家の安全保障のバランスは、中国社会でもまだ答えが出ていない問題だ。

暮らしてみて感じること

最初の数ヶ月は、至る所にあるカメラが気になる。しかし半年も経つと、存在を意識しなくなる。これが「慣れ」なのか「麻痺」なのかは自分でもわからない。

確実に言えるのは、便利さと引き換えに差し出しているものがある、ということだ。顔認証で改札を通るたびに、「自分の顔データがどこに行くのか」を考える人は少ない。考えなくなること自体が、このシステムの設計意図なのかもしれない。

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