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ドイツの薬局(Apotheke)——処方薬も市販薬も「薬剤師の対面」を通す国

ドイツではドラッグストアに薬が置かれていない。全ての医薬品はApotheke(薬局)でしか買えず、薬剤師が対面で対応する。夜間・休日のNotdienstApotheke制度まで含めた独自の医薬品流通を解説。

2026-05-10
ドイツ薬局Apotheke医療処方薬Notdienst

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ドイツに来て最初に戸惑うのが、ドラッグストア(dm、Rossmann等)に薬がないことだ。日本ならマツモトキヨシで風邪薬を買える。ドイツではそれができない。

ドイツの薬事法(Arzneimittelgesetz)により、医薬品の販売は薬局(Apotheke)に限定されている。頭痛薬も、風邪薬も、胃薬も、すべてApothekeのカウンターで薬剤師に「何が欲しいか」を告げて購入する。棚から自分で取ってレジに持っていくスタイルではない。

Apothekeの仕組み

ドイツ全土に約18,000のApothekeがある(ABDA=ドイツ薬剤師連邦連合会、2023年データ)。人口約8,400万人に対して18,000軒——約4,700人に1軒の計算だ。

Apothekeは個人経営が原則で、薬剤師免許を持つ個人(Apotheker/in)が開設する。チェーン展開は法律で禁止されている。1人の薬剤師が所有できるApothekeは最大4店舗(本店1+支店3)まで。この規制により、大手資本による市場独占が防がれている。

店内に入ると、壁一面に引き出しや棚が並んでいるが、薬は客側からは見えない。カウンターの向こうに薬剤師がいて、症状を伝えるか処方箋(Rezept)を渡すと、奥から該当する薬を持ってきてくれる。

処方薬と市販薬の区分

ドイツの医薬品は3つのカテゴリに分かれる。

verschreibungspflichtig(処方箋必須): 医師の処方箋がないと購入できない。抗生物質、高血圧薬、精神科の薬など。公的医療保険(gesetzliche Krankenversicherung)に加入していれば、処方薬の自己負担は1品あたり€5〜€10(約800〜1,600円)の定額(Zuzahlung)だ。薬の実際の価格に関係なく、この定額を払えばいい。

apothekenpflichtig(薬局販売限定): 処方箋は不要だが、Apothekeでしか買えない。風邪薬、鎮痛剤(Ibuprofen、Paracetamol)、胃腸薬など。日本のドラッグストアで買える市販薬の多くがここに含まれる。全額自己負担。

freiverkäuflich(自由販売): ドラッグストアやスーパーでも買える。ビタミン剤、のど飴、ハーブティーなど。「薬」というよりサプリメントや食品に近いものが中心。

日本人が驚く価格の話

Apothekeで市販薬を買うと、意外に安い。Ibuprofen 400mg(20錠入り)が€3〜€5(約480〜800円)程度。Paracetamol 500mg(20錠入り)は€2〜€4(約320〜640円)程度。日本の市販鎮痛剤と同等か、やや安い。

ただし「薬剤師に症状を説明する」というハードルがある。ドイツ語ができない場合、英語対応の薬剤師がいるApothekeを探すか、症状を書いたメモを持っていくのが現実的だ。大都市のApothekeでは英語が通じることが多いが、地方では厳しい場合もある。

Notdienst——深夜・休日の薬局当番制

ドイツの薬局制度で最も特徴的なのが、Notdienst-Apotheke(当番薬局)の仕組みだ。

夜間・休日でも、地域内で必ず1軒のApothekeが交代で営業している。24時間365日、どこかのApothekeが開いている状態が法律で保証されている。

当番薬局の探し方は簡単だ。各Apothekeの入口に「次の当番薬局」の案内が掲示されているし、apotheken.deのウェブサイトや、電話番号22833(携帯からは0800-00-22833)で最寄りの当番薬局を検索できる。

Notdienst利用時は、通常の薬代に加えてNotdienstgebühr(当番手数料)として€2.50が加算される。深夜に薬が必要になったとき、€2.50の追加で薬剤師に対面で相談できるのは、制度としてかなり手厚い。

オンライン薬局と在住者が知っておくべきこと

近年、DocMorris、REDCARE Pharmacyなどのオンライン薬局(Versandapotheke)が急成長中だ。価格は実店舗より10〜30%安いことが多く、2024年からは電子処方箋(E-Rezept)で処方薬のオンライン購入もスマートフォンで完結できるようになった。結果、ABDAの統計では2010年の約21,400軒から2023年の約18,000軒へ、13年で16%減少している。

ドイツに住む日本人にとって、Apothekeとの付き合い方は生活の基本スキルだ。Hausarzt(かかりつけ医)に相談すれば、日本で飲んでいた薬の同等品を処方してもらえる。保険適用で自己負担は定額€5〜€10。軽い症状なら、医師にかからずApothekeで相談して市販薬を勧めてもらうこともできる。


主な参照: ABDA(ドイツ薬剤師連邦連合会)統計2023、ドイツ薬事法(Arzneimittelgesetz)、連邦保健省医薬品分類規定、apotheken.de

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