ドイツの借主は強すぎる——立ち退きに3年かかる国の不動産ロジック
ドイツの借地借家法はEU随一の借主保護。立ち退き制限、家賃上昇キャップ(Mietpreisbremse)、Eigenbedarfの要件を構造的に解説する。
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ベルリンで10年住んだアパートの大家が物件を売却した。新しいオーナーが「自分が住みたい」と言ってきた。日本なら引っ越しを考えるところだが、ドイツでは話が違う。
ドイツの借主は、法的に極めて強い立場にいる。
Eigenbedarf(自己使用目的の立ち退き)
大家が唯一、借主に立ち退きを求められる正当事由が「Eigenbedarf」——自分または近親者がその物件に住む必要がある場合だ。ただし条件は厳格で、裁判所が「本当に住む必要がある」と認めなければ通らない。
立ち退き通知を出しても、借主に異議申し立ての権利がある。高齢者、障害者、妊婦、長期居住者には特別保護がかかる。60歳以上の借主を立ち退かせるのは、実務上ほぼ不可能だ。
通知から実際の退去まで、法的手続きを含めると1〜3年かかることがある。
Mietpreisbremse(家賃ブレーキ)
2015年に導入されたMietpreisbremse(家賃ブレーキ)は、新規賃貸契約の家賃を地域の比較家賃(Mietspiegel)の10%以内に制限する規制だ。ベルリン、ミュンヘン、ハンブルク等の大都市で適用されている。
例えばベルリンのMietspiegelが㎡あたり€8.00の地域なら、新規契約の家賃は最大€8.80/㎡になる。50㎡のアパートで月額€440(約70,400円)が上限だ。
ただし、2014年以降に建築された新築物件と大規模リノベーション済み物件は適用除外。この抜け穴が高級リノベーション物件の増加を加速させている。
解約保護(Kündigungsschutz)
借主が家賃を3ヶ月以上滞納した場合、大家は契約を解除できる。だがそれでも裁判所の決定が必要で、即座に追い出すことはできない。裁判手続きに6ヶ月〜1年かかる。
逆に、借主からの解約は3ヶ月前の書面通知だけで済む。理由の説明は不要。この非対称性がドイツの賃貸市場の特徴だ。
在独日本人への影響
この強い借主保護は、在独日本人にとっては有利に働く。一度アパートを確保すれば、簡単に追い出されることはない。転勤や帰国の際も3ヶ月前に通知すれば円満に退去できる。
一方で、大家側の警戒心も高い。借主を選ぶ段階で厳格な審査が行われる。Schufa(信用情報)スコア、収入証明(Einkommensnachweis)、前の大家からの推薦状(Mietschuldenfreiheitsbescheinigung)が求められる。
ドイツに着いたばかりでSchufaスコアがない外国人は、数ヶ月分の家賃を前払いするオファーを出して競争力を上げることがある。ベルリンでは1つの物件に50〜100組の応募が来ることも珍しくない。