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Reisefieber——ドイツ人が旅の前日に「熱を出す」理由

Reisefieber(旅の熱)はドイツ語で「旅行前の興奮と不安が混じった状態」を意味する。ドイツ人の旅行への執着は年間平均24.2日の有給消化率に裏打ちされている。

2026-05-23
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ドイツ語にReisefieberという単語がある。直訳すると「旅の熱」。旅行の前日に興奮と不安で落ち着かなくなる状態を指す。

日本語には対応する単語がない。「旅行前のそわそわ」くらいだろうか。だがドイツ語はこの感情に正式な名前を付けた。名前が付くほど、ドイツ人にとって旅は日常のイベントだということだ。

世界一旅行する国民

ドイツ人の海外旅行支出は世界第3位(2023年、UNWTO)。人口8,400万人の国が、アメリカ(3.3億人)・中国(14億人)に次ぐ旅行消費額を記録している。人口あたりの旅行支出は世界トップクラスだ。

この旅行消費を支えているのが、有給休暇の消化率だ。ドイツの平均有給消化日数は年間約28日(法定最低20日+企業上乗せ分)。消化率はほぼ100%。日本の有給取得率62.6%(2023年、厚労省)とは文化が違う。

Urlaubsgeld——休暇手当という制度

ドイツの約半数の企業がUrlaubsgeld(休暇手当)を支給している。年1回、夏の休暇前に月給の1〜1.5倍を追加で支払う制度だ。

休暇を取ること自体が会社から経済的に支援される。「休むのは権利」ではなく「休むのは義務」——この感覚がドイツの職場にはある。上司が部下に「なぜ有給を使わないのか」と聞く国だ。

ドイツ人の旅先

ドイツ人の旅行先トップ3はスペイン、イタリア、トルコ(2023年、DRV)。太陽を求めて南へ向かう傾向は「Flucht nach Süden(南への逃避)」と呼ばれる。

ドイツの冬は日照時間が短い。ベルリンの12月は日の出が午前8時過ぎ、日の入りが午後4時前。約8時間しか明るくない期間が数ヶ月続く。この暗さから逃れるために、ドイツ人は太陽がある場所に移動する。

日本人駐在員がドイツの冬を初めて経験すると、午後3時半に暗くなる世界に衝撃を受ける。そしてドイツ人の南方旅行への執着が、生存本能に近いものだと理解する。

Brückentag——橋の日の技術

ドイツ人は祝日と週末の間に挟まれた平日を「Brückentag(橋の日)」と呼び、有給を1日使って4連休を作る技術に長けている。

年初にBrückentag一覧がニュースサイトに掲載され、「今年は最大○連休が可能」という記事が毎年バズる。労働者が全員同じ計算をするため、Brückentag前後は電車・飛行機が混雑し、ホテルが値上がりする。

日本人が「有給を取りづらい」と言うと、ドイツ人は本気で困惑する。休暇は生産性の源泉であり、休まない労働者は非効率——という確信が共有されている社会だ。

旅行は日本人にとって「特別なイベント」だが、ドイツ人にとっては「定期メンテナンス」に近い。Reisefieberという単語の存在は、メンテナンス前の緊張感を表しているのだと思う。

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