雪かきは親切ではなく義務——ドイツの歩道に敷かれた責任の地図
Räum- und Streupflichtは道路管理の話ではなく、公共空間の安全を沿道住民に分担させる制度。転倒事故の責任が誰に落ちるかを追うと、この国の公私の境界が見えてくる。
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ドイツの歩道は自治体のものです。しかし冬に雪が積もったとき、それを取り除く責任は自治体にはありません。沿道の建物の所有者にあります。
さらに驚くのは、この責任が契約によって借主に移せることです。つまり賃貸アパートの住人が、公道である歩道の雪かきを法的に負うことがある。自分の敷地ではない場所を、自分の責任で安全にしておく。
10月にこの話をするのは早すぎません。契約書を読み返すなら、雪が降る前がいい時期です。
責任は建物から道へ染み出す
ドイツ法にはVerkehrssicherungspflicht(交通安全確保義務)という概念があります。ある空間を支配している者は、そこを通る人が危険に遭わないようにする義務を負う、という考え方です。
歩道の雪かきは、この義務が自治体から沿道の所有者へと条例で降ろされた形になっています。自治体の条例(Straßenreinigungssatzung)が細部を決めるため、規則は市町村ごとに違う。ただ、大枠は全国で似ています。
多くの条例では、除雪を行う時間帯を平日はおおむね朝7時から夜20時とし、日曜・祝日は8時または9時開始と遅らせています。開始を6時より前に、終了を22時より後に設定することはできないという運用が一般的です。
除雪する幅についても、歩行者がすれ違える幅——多くの自治体で1.5メートル程度——を確保するよう求める規定が置かれています。
「だいたい」が許されない設計
時刻と幅が数字で決まっていることには理由があります。転倒事故が起きたとき、誰が責任を負うかを後から判定しなければならないからです。
「気づいたときにやっておいた」では、判定ができません。朝7時時点で歩道が凍結していたか。1.5メートルの通行帯が確保されていたか。事実として検証できる形に落としてはじめて、責任の所在が決まる。
これは、航空機の整備記録や医療のカルテと同じ発想です。行為そのものより、行為が検証可能な形で残っているかどうかが問われる。ドイツ社会が書式と手続きを厚く積む背景には、事後の責任配分という共通の目的があります。
契約書に書いていなければ義務はない
借主にとって重要な点があります。除雪義務を借主に移すには、賃貸借契約(Mietvertrag)に明示的な定めが必要だとされています。
建物の管理規則(Hausordnung)に書いてあるだけでは足りない、という扱いが一般的です。入居後に配られた紙に書いてあった、という状態では義務が移っていない可能性がある。
そして、義務を移した後も所有者の責任が完全には消えません。借主が適切に実施しているかを確認する立場が残ると解されています。責任の全部を移すのではなく、実行を移して監督を残す。二重構造です。
実際に何を用意するか
雪かき用のスコップと、滑り止めの砂や砂利を秋のうちに買っておくと冬が楽になります。ホームセンターでは秋の終わりから並び、初雪の直後に売り切れます。
ここで一つ注意があります。多くの自治体が、歩道への塩(Streusalz)の使用を条例で禁止または制限しています。街路樹の根や地下水への影響が理由です。砂、砂利、火山礫などが指定されることが多い。
街路樹の保護が条例で定められている国ですから、路面の安全と樹木の健康のどちらを優先するかについても、あらかじめ順位が決められています。
集合住宅で当番制(Kehrwoche的な運用)がある場合は、階段掃除の当番と同様に、担当週の範囲がどこまでかを最初に確認しておくと揉めません。
誰の足元を守っているのか
自分の前を通る他人のために、朝7時前に起きて雪を退ける。この構図は、合理性だけで説明すると窮屈に見えます。自治体が一括して除雪車を走らせたほうが効率はいい。
しかし効率のよい方法には、歩道の細部まで手が届かないという欠点があります。ドアの前、段差、集合住宅の入口。そこは、そこに住む人しか見ていない。
制度は、見ている人に責任を置いた——と読むこともできます。公共空間の安全を、行政の能力ではなく、そこに日々立つ人の目に接続した設計です。冬の朝にスコップを持つのは、その接続点に自分が立っているということなのかもしれません。