バスク地方・ビルバオに住む——「スペインらしくない」スペインの暮らし
ビルバオはスペインで最も「スペインらしくない」都市のひとつだ。雨が多く、食文化が独自で、バスク語が存在する。グッゲンハイム美術館で有名なこの街の在住者目線での生活実態を伝える。
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スペインという国を一色に塗ろうとすると、必ずはみ出す地域がある。バスク地方もその一つだ。ビルバオ、サン・セバスティアン、ビトリア——これらの都市を歩くと、南のアンダルシアやバルセロナのカタルーニャとは全く異なる空気が流れている。
グッゲンハイム・ビルバオ美術館の建物を知っている人は多いが、ビルバオという街に「住む」イメージを持っている人は少ない。
バスクとは何か
バスク地方(スペイン語でPaís Vasco、バスク語でEuskal Herria)はスペイン北部のカンタブリア海沿岸に位置し、フランス国境に接する。独自の言語であるバスク語(Euskara)を持ち、起源が未解明のまま他のヨーロッパ言語とは系統が異なると言われている。
カタルーニャと同様に独自の文化と独立への志向を持つ地域だが、政治的な立場はカタルーニャとは異なる経緯を持つ。近代史の文脈では、ETA(バスク祖国と自由)という分離独立過激組織が20世紀後半に活動していたが、2018年に武装解除し、現在のバスク社会は安定している。
雨と緑の北スペイン
バスク地方の気候は北スペインの典型で、一年を通じて雨が多い。セビリアの45℃夏とは対極の世界だ。夏でも20〜25℃程度で過ごしやすく、冬は10℃前後まで下がる。
「スペインは暑い」というイメージでビルバオに来ると、最初は戸惑う。山が海に迫る地形に緑が豊かで、日本の山岳地帯に近い風景が広がっている。「南スペインの強烈な日差しが苦手」という在住者がビルバオを選ぶ理由の一つがこの気候だ。
食文化の別格感
バスク地方は美食で知られる。ミシュランの星付きレストランの密度がヨーロッパ最高水準とも言われる地域だ。
日常的にアクセスできるのが「ピンチョス(Pintxos)」だ。バルのカウンターに並んだ小皿料理で、マドリード周辺の「タパス」と似ているが、量・質・バリエーションがビルバオ・サン・セバスティアンの方が充実している印象を持つ在住者は多い。
1皿2〜4EUR程度で、夕方から友人とバルをはしごしながらピンチョスを楽しむ文化がある。在住者からは「毎日の食事が楽しい」という声が多く、食への関心が高い日本人に特に刺さる生活環境だ。
都市の規模と生活環境
ビルバオの人口は約35万人(大都市圏で約100万人)。マドリードやバルセロナと比べると規模は小さいが、都市機能は整っている。メトロ・トラム・バスが発達しており、車なしで生活できる。
家賃はマドリード・バルセロナより安い傾向がある。市内中心部の1LDKで900〜1,300EUR(約14〜21万円)前後が一つの目安になる。
ただし日本食や外国語書籍などの入手環境は大都市ほど充実しておらず、アジア食材店の数も限られる。
バスクで日本人は目立つ
在留邦人の数はマドリード・バルセロナと比べて少なく、ビルバオの日本人コミュニティは小さい。目立つ分、地元スペイン人との交流が自然に生まれやすい面もある。
バスク語を少しでも覚えて使おうとすると、地元民に驚かれつつ喜ばれる体験をする人が多い。「Eskerrik asko(ありがとう)」一言でも、距離感が変わる瞬間がある。
スペインの中で「別の国に来たような感覚」を求める人、食と自然を優先する人——そういう軸を持っているなら、ビルバオは大都市にはない選択肢になる。