闘牛廃止運動の現在地:「文化遺産」vs「動物虐待」の争い
スペインの闘牛は法律で「文化遺産」に指定されているが、廃止を求める運動も根強い。世代間・地域間の分断が見えるこの問題を、在住者の視点で読む。
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「闘牛についてどう思う?」とスペイン人に聞くと、返ってくる反応は年齢と出身地によって大きく違う。50代以上のアンダルシア出身の男性なら「文化だ、守るべきだ」。20代のバルセロナ育ちなら「もう時代じゃない」。この問いは、スペイン社会の断層をそのまま映す。
法律が守る「文化遺産」
2013年、スペインの国家文化遺産法が改正され、闘牛が「国の文化遺産」として保護された。これはカタルーニャ州が2012年に闘牛を禁止したことへの対抗措置と解釈されている。文化遺産に指定されると、地方が禁止条例を制定しにくくなる。
ただしカナリア諸島では1991年に闘牛が禁止されており、バレアレス諸島でも成牛の致死規定が廃止されていた(後に最高裁判決で覆されるなど、法的な変遷が続いている)。
産業としての規模
闘牛は産業でもある。マタドール(闘牛士)、バンデリジェロ(補助役)、馬術師、牧場主、興行主——多くの雇用を生む構造がある。年間の闘牛開催数は1990年代がピークで、現在は減少傾向にあるとされるが(推定)、主要な闘牛場(マドリードのラス・ベンタス等)では依然として満席になる試合もある。
観光客の存在も大きい。スペインを訪れた外国人旅行者の一部が「本物の闘牛を見たい」と闘牛場を訪れる。この観光需要が産業を下支えしているという皮肉な構造もある。
廃止運動の実態
廃止を求める運動は複数の団体が活動しているが、政治的な影響力という点では限定的だ。社会主義労働者党(PSOE)内にも廃止支持者はいるが、農村票や伝統文化票を失いたくない政党の論理が廃止を阻む。
若い世代を中心に闘牛への関心は確実に低下している。入場者数の減少は複数の研究や報道で示されており、「禁止するまでもなく自然消滅するのではないか」という見方もある。
牧場側の論理
セビリア近郊やエストレマドゥーラには闘牛牛の牧場が多数ある。牧場主は「うちの牛は放牧で自由に育てている。それを動物虐待と呼ぶのはおかしい」という主張をする。比較対象として工場畜産の牛との違いを持ち出す人もいる。
闘牛用の牛(ブラーボ種)はもともと戦闘的な気質を持つよう選別育種された品種で、闘牛がなければその品種を維持する経済的理由もなくなるという観点もある。
在住者が見る温度差
マドリードやセビリアで闘牛のシーズン(春〜秋)に看板を目にしても、在住外国人の多くはそれを「文化として尊重しつつ、参加しない」という態度をとることが多い。強く批判することも、積極的に支持することもない。
スペイン人との関係を作っていく中でこの話題になったとき、一方的な意見を押し付けないのが無難だ。「どう思う?」と聞き返す方が、相手の本音が聞けて関係が深まることの方が多い。
答えが一つではない問いだからこそ、会話として成立する。