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文化・観光

巡礼者ではなく住民として歩く——スペイン在住者が見るサンティアゴ巡礼道

カミーノ・デ・サンティアゴは年間30万人以上が歩く巡礼路。観光客として訪れるのと、スペインに住みながら関わるのでは、見える景色がまるで違う。在住者視点で巡礼道の実態を伝える。

2026-04-13
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マドリードに住んで2年が経った頃、同僚のスペイン人に「カミーノ歩いたことある?」と聞かれた。「ない」と答えると、少し驚かれた。スペイン人にとってカミーノは「いつか歩くもの」という感覚がある。外国人居住者の自分がまだ歩いていないことは、彼らには不思議に映ったらしい。

サンティアゴ・デ・コンポステーラへと続く巡礼路、カミーノ・デ・サンティアゴ。毎年世界中から30万人以上が訪れ、800kmを超えるフランス人の道(カミーノ・フランセス)が最も有名だ。宗教的な動機で歩く人もいれば、単純なトレッキングとして、あるいは人生の節目に歩く人もいる。

観光客として歩く場合と、在住者として関わる場合では経験の質がまったく異なる。

「歩いてきた」スペイン人の話

スペイン人の同僚や知人と話すと、驚くほど多くの人がカミーノを経験している。バルセロナ出身の同僚は25歳の誕生日に一人で歩いた。セビリア生まれの友人は失業したタイミングで二度歩いたという。「人生の整理がつく」と彼は言った。

スペイン社会にとってカミーノは「特別なもの」ではなく「人生のどこかで通るもの」という位置づけに近い。信仰の深さとは別に、一種の文化的通過儀礼として機能している。

在住者として長く暮らすと、こういった話が自然に耳に入ってくる。観光で短期滞在しているだけでは出会えない感覚だ。

巡礼路の沿線に住む

フランス人の道はサン・ジャン・ピエ・ド・ポー(フランス)から始まり、スペイン北部を横断してガリシア州に入る。ナバラ州、リオハ州、カスティーリャ・イ・レオン州、ガリシア州——それぞれ気候も風景も文化も違う。

この沿線に居住している在住者にとっては、毎年春から秋にかけて巡礼者が街を通り過ぎる光景が日常になる。ブルゴスやレオンに住む在住日本人から「春になるとリュックを背負った人が増えて、なんか良い季節だなと感じる」という話を聞いたことがある。

ガリシア州に住んでいる場合は、最終区間を歩く巡礼者の緊張感や高揚感を街で感じられる。サンティアゴ・デ・コンポステーラ自体に住むなら、ミサのある大聖堂前に毎日のように立つことになる。

費用の実態

フランス人の道を全区間歩く場合、移動費・宿泊費・食費を合わせると1,000〜1,500EUR(約16〜24万円)程度が一つの目安とされる。宿泊はアルベルゲ(巡礼者宿)を使えば1泊10〜15EUR前後で抑えられる。

ただし在住者の場合、スタート地点まで自分で移動できる。フランス人の道ならパンプローナあたりから出発する選択もできるし、ポルトガル人の道ならポルトやリスボンからではなくビーゴやポンテベドラから出発する(最終100km)という方法もある。

最後の100km以上歩くとCompostela(証明書)が発行される。スペイン在住者でもこの証明書を取るために最低限の区間だけ歩く人は少なくない。

季節と混雑

7〜8月が最も混雑する。アルベルゲは予約なしでは埋まることもある。在住者として計画するなら、5〜6月か9〜10月が歩きやすい。ガリシアは年中雨が多いことでも有名なので、防水装備は必須だ。

春先のナバラはポピーが咲き乱れる丘陵地帯が美しく、秋のガリシアは霧に包まれた森が幻想的になる。観光客よりも時間の自由が利く在住者は、混雑を避けながら好きな季節に歩ける強みがある。

歩いてみて変わること

カミーノを歩いた後、スペインという国の「奥行き」を感じるようになると話す在住者は多い。南のアンダルシアや東のバルセロナとは異なる、北スペインの静かで雨がちな風景。小さな村の石畳。早朝から歩いている人たちの顔。

観光地としてのスペインではなく、生活の場としてのスペインを実感するきっかけになる。何年住んでいても、まだ知らない顔がある——それがスペインという国の面白さかもしれない。

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