セルバンテスとスペイン文学——ドン・キホーテの国で暮らす文化的背景
スペインに暮らすなら、文学が生活に根付いている国だと実感する。セルバンテスの『ドン・キホーテ』が今も日常会話に登場するスペイン文化の奥行きを紹介する。
スペインに住んでいると、文学が「教科書の中だけのもの」ではないと気づく。バルのおじさんが「まるでドン・キホーテだ」と言い、政治家がスピーチでセルバンテスを引用する。文学が日常語の一部になっている国だ。
セルバンテスとは何者か
ミゲル・デ・セルバンテス(1547-1616)は、スペイン文学の象徴的存在。代表作『ドン・キホーテ』(第1部1605年、第2部1615年)は、世界初の近代小説とも呼ばれ、英訳・仏訳より先にスペイン語で読まれてきた作品だ。ユネスコが「最も優れた文学作品」に選んだアンケートでも1位を獲得している。
スペインに来てから、この作品を原語で読もうとする在住外国人は多い。ただし17世紀のカスティジャーノは現代スペイン語とかなり異なり、B2レベルでも苦労する。注釈付きの現代語版から始めるのが現実的な選択だ。
ラ・マンチャ——ドン・キホーテの舞台
マドリードから南へ車で1.5〜2時間、ラ・マンチャ地方に入ると、小説の舞台が目の前に広がる。風車が立ち並ぶコンスエグラやカンポ・デ・クリプターナは、観光客だけでなく在住スペイン人もよく訪れる。
内陸性気候のため夏は40℃を超え、冬は-5℃まで下がる。バルセロナやマドリードからのday tripには向いているが、居住地としては快適性より文学的ロマンを優先する人向けだ。
スペイン語教育とセルバンテス
スペイン政府は「インスティトゥート・セルバンテス(Instituto Cervantes)」という機関を世界87か国に設置し、スペイン語と文化の普及を担っている。日本にも東京と大阪に拠点がある。スペイン語検定DELE(デレ)はここが主催しており、就労・留学・移民申請に使えるA1〜C2の6段階がある。
在住外国人がスペイン語力を公式に証明したい場合、DELEは有力な選択肢の一つだ。
文学を入口にしたスペイン理解
在住者の中には、スペイン文学を読むことで現地への理解が深まったと語る人が少なくない。フェデリコ・ガルシア・ロルカ(グラナダ出身)の詩はアンダルシア文化の感性を体感するのに適しているし、ラモン・マリア・デル・バジェ=インクランの作品は北スペインの地域性を映し出す。
小説だけでなく、映画・演劇でもスペイン文学のモチーフは頻繁に使われる。スペイン語が上達してきた頃に、字幕なしで演劇を観るという目標を設定する在住者もいる。
日本人在住者にとっての入口
日本語訳された『ドン・キホーテ』は岩波文庫版(牛島信明訳)が読みやすい。スペインに来る前か来てすぐに読んでおくと、現地の人との会話で「自分なりのスペイン理解」を持って話せる。文学を通じた関係構築は、語学学校や職場とは異なる深さのつながりをもたらすことがある。