オリーブオイルが1リットル1,500円を超えた——スペインの「液体の金」危機
世界最大のオリーブオイル生産国スペインで、干ばつによる価格高騰が食卓を直撃している。オリーブオイルとスペイン経済・文化の関係を追う。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
スペインのスーパーでオリーブオイルを手に取ると、価格に目を疑う。エクストラバージン1リットルが9〜12EUR(約1,440〜1,920円)。3年前は4〜5EURで買えた。スペイン人にとってオリーブオイルは醤油と同じくらい日常的な調味料だ。その価格が2倍以上になっている。
スペインは世界のオリーブオイルの半分をつくっている
スペインは世界最大のオリーブオイル生産国で、世界生産量の約45%を占める。特にアンダルシア州が中心で、ハエン県だけで世界生産量の約20%を産出するとされる。
「オリーブの海」と呼ばれるアンダルシアの平原には、見渡す限りのオリーブ畑が広がっている。この風景がスペインの経済と食文化を支えてきた。
干ばつが引き起こした危機
2022年〜2024年、スペイン南部は記録的な干ばつに見舞われた。アンダルシアの年間降水量が平年の60〜70%にまで落ち込み、オリーブの収量が激減した。
2022/23年のスペインのオリーブオイル生産量は約78万トンで、前年の170万トンから半減した。翌年はやや回復したものの、在庫が積み上がるには至らず、価格は高止まりしている。
オリーブオイルなしのスペイン料理は成り立たない
スペイン料理におけるオリーブオイルの使い方は、日本人が想像する以上に多い。
- パン・コン・トマテ: トーストにトマトを塗り、オリーブオイルをたっぷりかける。カタルーニャの朝食の定番
- ガスパチョ: 冷製トマトスープ。オリーブオイルが乳化の要
- フリト(揚げ物): スペインの揚げ物はオリーブオイルで揚げる
- アリオリ: にんにくとオリーブオイルのソース
- サラダ: ドレッシングではなくオリーブオイルと塩とビネガーで食べる
スペインの一人あたりオリーブオイル消費量は年間約9リットル。イタリア(約7リットル)やギリシャ(約12リットル)と並ぶ消費量だ。
盗難が増えている
価格高騰に伴い、オリーブオイルの窃盗が増加している。スーパーではオリーブオイルに盗難防止タグがつけられるようになった。農園からの大量窃盗も報じられている。
「液体の金(oro líquido)」という比喩は、もはや比喩ではなくなりつつある。
気候変動と将来の見通し
スペインの農業研究機関は、気候変動によりアンダルシアの降水パターンが恒久的に変化する可能性を指摘している。乾燥化が進めば、オリーブの栽培適地が北へ移動する。
すでにポルトガル北部やフランス南部でオリーブ栽培が拡大している。逆に言えば、スペインのオリーブ畑は数十年後には今ほどの生産量を維持できないかもしれない。
在住者の台所への影響
日本人在住者の感覚では、オリーブオイルの値上がりはじわじわと効いてくる。以前は気軽に使っていたのが、無意識に使用量を減らしている自分に気づく。
スーパーのプライベートブランドやブレンドオイル(ひまわり油との混合)に切り替える家庭も増えた。スペイン人の友人が「うちの祖母はオリーブオイルを水のように使っていた。あの時代はもう戻ってこない」と言ったのが印象的だった。
オリーブオイルの価格は、スペインの食文化と気候変動が交差する場所にある。瓶の値段を見るたびに、この国の未来を少しだけ考えてしまう。