バルコニーは部屋の延長——スペイン人がベランダに洗濯物を干す理由と干してはいけない街
スペインではバルコニーが生活の一部だが、観光都市では条例で洗濯物の外干しが禁止されている。バルコニー文化と都市規制の間で暮らす在住者の話。
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スペインの住宅街を歩くと、バルコニーに洗濯物がはためいている。シーツ、タオル、下着——日本人から見ると少し大胆だが、スペインでは完全に普通の光景だ。乾燥機を持っている家庭は少数派で、太陽と風に乾かすのが標準だ。
ところが、バルセロナのゴシック地区やマドリードの中心部では、通りに面したバルコニーに洗濯物を干すことが市条例で禁止されている場所がある。景観保護のためだ。
バルコニーは「部屋」
スペインのバルコニー(balcón)は単なる出入口ではない。朝のコーヒーを飲む場所であり、夕方に椅子を出して近所の人と話す場所であり、夜にワインを飲みながら通りを眺める場所だ。
特に南部のアンダルシアでは、バルコニーに鉢植えを並べ、夏にはジャスミンやゼラニウムが咲き乱れる。コルドバの「パティオ祭り」はユネスコの無形文化遺産に登録されているが、あれは特別な祭りではなく日常の延長だ。
賃貸物件でのバルコニー
スペインの賃貸物件を探すとき、「balcón」の有無は価格に直結する。バルセロナのEixample地区では、バルコニー付きの物件はバルコニーなしに比べてEUR 50〜150/月(約8,000〜24,000円)高くなる傾向がある。
ただし、スペインの「バルコニー」は日本のそれとはサイズが違う。奥行き50cm程度のフランス式バルコニー(手すりだけで人が出られない)から、テーブルと椅子を置ける広いテラスまで幅がある。内覧時に実際に出てみるまで、使い勝手はわからない。
干してはいけない街、干す街
マラガ、セビリア、グラナダなどの観光都市では、歴史地区(Casco Antiguo)で洗濯物の外干しが規制されていることがある。罰金はEUR 60〜300(約9,600〜48,000円)程度だが、実際に取り締まられるかは地域によるムラがある。
一方、住宅地ではバルコニーの使い方に制限はほぼない。Comunidad de Vecinos(管理組合)の規約で制限される場合はあるが、総会で住民の過半数が賛成しないと規約変更できないため、「洗濯物禁止」が可決されることはまずない。
パンデミックで再発見されたバルコニー
2020年のロックダウン中、スペインのバルコニーは世界中のニュースに登場した。住民がバルコニーに出て拍手をし、音楽を演奏し、隣人と会話する映像が配信された。閉じ込められた生活の中で、バルコニーが唯一の「外」であり「社交の場」だった。
ロックダウン後もこの「バルコニー再評価」は続いている。テレワークの普及で自宅の滞在時間が増え、バルコニー付きの物件への需要がさらに高まった。バルセロナの不動産サイトでは「terraza」「balcón」がフィルターの上位検索条件になっている。
スペインのバルコニーは、パブリックとプライベートの境界線上にある。通りから見えるけれど、自分の空間。その曖昧さが、スペインの都市生活のリズムをつくっている。