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スペインのパンは1kgあたりEUR 1以下だった——価格統制の記憶とバゲットの現在

スペインのパンはかつて価格が政府に統制されていた。今でもバゲット1本EUR 0.60〜1.00の安さを維持する理由と、パンが食卓で果たす役割を在住者視点で解説。

2026-05-22
パン食文化価格ベーカリー生活

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

スペインのスーパーでバゲット(barra de pan)を1本買うと、EUR 0.60〜1.00(約96〜160円)。日本のコンビニの食パン1斤より安い。フランスでバゲットがEUR 1.00〜1.50であることを考えても、スペインのパンは安い。

なぜこれほど安いのか。歴史が関係している。

価格統制の名残

スペインでは1996年までパンの価格が政府によって統制されていた。フランコ政権時代(1939〜1975年)に始まった統制は、民主化後も20年以上続いた。「パンは国民の基本食であり、高くしてはならない」という政治的意思が価格を抑え続けた。

統制は解除されたが、市場の慣性は残った。消費者は「パンは安いもの」という期待を持ち続け、パン屋も価格を大幅に上げることを避けている。インフレで原材料費が上がっても、バゲットの価格上昇は他の食品より緩やかだ。

パンの食べ方

スペインの食卓にはパンが常駐する。レストランでは料理を注文すると、自動的にパンのかご(cestillo de pan)が出てくる。有料のこともあるが、EUR 0.50〜1.00程度。

スペイン人はパンでソースを拭う。皿に残ったオリーブオイル、トマトソース、シチューの汁——パンの切れ端で拭い取ることを「mojar pan」と言い、行儀が悪いとはされない(フォーマルな場を除く)。

朝食はトーストしたパンにすりおろしトマトとオリーブオイルをかけた「pan con tomate」がカタルーニャの定番。アンダルシアでは「mollete」という柔らかいパンにオリーブオイルとハモンを載せる。パンは主食であり、調理器具であり、皿でもある。

パン屋(panadería)の日常

スペインの街には必ずパン屋(panadería)がある。チェーン展開している大手もあるが、個人経営のパン屋が健在だ。朝7時〜8時に焼き上がり、昼過ぎには売り切れる店も多い。

注目すべきは「pan artesano」(職人パン)のトレンドだ。天然酵母(masa madre)を使い、長時間発酵させたパンを売る店が増えている。価格はEUR 3〜6(約480〜960円)と一般的なバゲットの5倍以上だが、若い世代を中心に支持されている。

パンを通じて見えるスペイン

パンの安さは、スペインの「食は公共財」という思想を反映している。高級レストランが増えても、日常の食事は安く、量が多く、テーブルの真ん中にパンがある。

スイスでは水が、日本ではお茶が無料で出てくる。スペインではパンがそれに近い位置にある。何が「当然あるべきもの」とされるかに、その国の価値観が表れる。

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