スペインギターの音がする国——フラメンコギターから路上演奏まで
クラシックギターの原型はスペインで生まれた。フラメンコギターの構造的な違い、路上演奏の文化、そしてスペインでギターを習う方法までを紹介する。
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現代のクラシックギターの設計を確立したのは、19世紀グラナダの製作家アントニオ・デ・トーレス。彼が1850年代に作ったギターのボディサイズ・ブレーシング構造が、いま世界中で弾かれているギターの原型になっている。ギターという楽器そのものが、スペインの発明品だ。
フラメンコギターとクラシックギターの違い
見た目はほぼ同じだが、構造が違う。フラメンコギター(guitarra flamenca)はシープレス材(糸杉)をサイドとバックに使い、クラシックギターよりボディが薄い。弦高(弦と指板の間の距離)も低く設定されている。
理由は奏法の違いにある。フラメンコは「ラスゲアード(かき鳴らし)」「ゴルペ(ボディを叩く)」など打楽器的な奏法が多く、反応の速い薄いボディが必要になる。ゴルペから指板を守るために、サウンドホールの周囲にゴルペ板(透明プラスチックの保護板)が貼られているのもフラメンコギターの特徴だ。
路上に溶け込むギターの音
マドリードのソル広場、バルセロナのランブラス通り、グラナダのアルバイシン地区。スペインの都市を歩いていると、どこかからギターの音が聞こえてくる。路上演奏(busking)はスペインの都市文化の一部で、フラメンコだけでなくポップス、ボサノヴァ、ジャズを弾く演奏者もいる。
セビリアのトリアナ地区では、バルのテラスに座っていると流しのギタリストがテーブルの間を歩いてくることがある。1曲弾いて€2〜5のチップを受け取るスタイルだ。観光客向けの演出ではなく、昔からある文化がそのまま残っている。
スペインでギターを習う
在住外国人がスペインでフラメンコギターを習う場合、選択肢は主に3つ。
- 音楽院(Conservatorio): 公立の音楽学校。入学試験あり。学費はコミュニダ(自治州)により異なるが、年間€200〜600(約3.2万〜9.6万円)と安い
- 私立のフラメンコ教室: 1レッスン(60分)€20〜40(約3,200〜6,400円)が相場。セビリア・ヘレス・マドリードに多い
- 個人レッスン: ギタリストに直接依頼。1時間€25〜50(約4,000〜8,000円)
フラメンコの本場はセビリア、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、グラナダの3都市。特にヘレスは「フラメンコの聖地」とされ、毎年2〜3月の「Festival de Jerez」には世界中からフラメンコ愛好家が集まる。
ギター製作の伝統
グラナダにはいまも手工ギター製作家(luthier)の工房が10軒以上ある。アントニオ・マリン・モンテーロ、ホセ・ロマニリョスといった名工の系譜を継ぐ職人たちが、1本あたり数ヶ月〜1年をかけてギターを作っている。
手工ギターの価格は€3,000〜15,000(約48万〜240万円)。高いが、スペイン製の手工ギターは「産地」としての信頼があり、世界中のプロギタリストが注文する。グラナダの工房を訪ねて制作過程を見学できる場合もある。
スペインに住んでいると、ギターは「楽器」以上のものだと気づく。路上の音、バルの片隅の音、夏の夜の窓から漏れる音——この国ではギターの音が生活の背景音になっている。