スペインの医療制度——公的医療は無料だが予約が3ヶ月先になる現実
スペインの公的医療は無料で質も高い。しかし専門医の予約待ちが数ヶ月に及ぶ。公的医療と民間保険の使い分けを在住者向けに解説します。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
スペインの公的医療(Seguridad Social)は無料だ。診察も、検査も、手術も、入院も。自己負担はほぼゼロ。ユニバーサルヘルスケアの模範的な制度——と言いたいところだが、専門医の予約が3ヶ月先と言われたとき、「無料」の意味を考え直すことになる。
公的医療の仕組み
スペインの医療は国民保健制度(Sistema Nacional de Salud)に基づいている。Empadronamiento(住民登録)と社会保険への加入で、Tarjeta Sanitaria Individual(TSI=医療カード)が発行される。このカードがあれば、公的医療機関での診療がすべて無料になる。
就労者は社会保険料として給与の約6.35%を負担している(雇用主は約29.9%)。自営業者(autónomo)も社会保険料の中に医療保険が含まれる。
かかりつけ医(Médico de Cabecera)
スペインの公的医療はかかりつけ医制度だ。住所に基づいてCentro de Salud(保健センター)が割り当てられ、そこのMédico de Cabecera(かかりつけ医)が一次診療を担当する。
風邪、腹痛、慢性疾患の管理——まずはかかりつけ医に相談する。必要があれば専門医や病院への紹介状(derivación)を出してもらう。日本のように自分で直接専門医を受診することは、公的医療の枠内ではできない。
かかりつけ医の予約は通常1〜5日以内に取れる。電話またはオンラインで予約する。緊急の場合は当日枠がある。
専門医の待ち時間問題
問題は専門医だ。かかりつけ医から紹介を受けても、専門医の予約が1〜6ヶ月先ということがある。特に皮膚科、眼科、整形外科は待ち時間が長い傾向がある。
地域差も大きい。マドリードやバルセロナの都市部は比較的短いが、地方では半年待ちも珍しくない。手術の待機リストは平均120日以上というデータもある。
緊急性が高い場合(がんの疑い、急性疾患など)は優先的に対応されるが、「急ぎではないが困っている」レベルの疾患では長期間待たされることになる。
民間保険という選択肢
多くの在住者が公的医療に加えて民間保険(Seguro Privado)に加入している。主な保険会社はSanitas、Adeslas、DKV、Asisa、MAPFREなど。
民間保険の月額は年齢や補償内容によるが、30代で月額40〜80EUR(約6,400〜12,800円)程度。50代以上になると100EUR超えも珍しくない。
民間保険のメリットは明確だ。専門医の予約が1〜2週間以内に取れる。検査結果が数日で出る。病院も選べる。英語対応の医師が見つかりやすい。
在住日本人の選択
在住日本人の多くは「公的+民間」の二刀流だ。日常的な診療はかかりつけ医(無料)、専門的な治療や急を要する検査は民間保険で対応する。
デジタルノマドビザや非就労ビザ(visa no lucrativa)で滞在する場合は、公的医療へのアクセスが制限されることがある。この場合は民間保険が必須になる。Sanitasの「Sin copago(自己負担なし)」プランが在住外国人に人気がある。
救急(Urgencias)
緊急時は最寄りの病院のUrgencias(救急)に直接行ける。予約不要で、保険の有無に関わらず対応される。救急車は112番で呼べる。
ただし、Urgenciasは混雑していることが多い。生命に関わらない症状で行くと、4〜8時間待つことも覚悟が必要だ。トリアージ(緊急度判定)で優先順位が決まるので、軽症と判断されると後回しになる。
スペインの医療は「制度としては優秀、運用としては忍耐が必要」というのが在住者の実感だ。無料であること自体は大きなメリット。あとは待ち時間との付き合い方次第だ。