3億本のオリーブ——スペインの風景をつくる木の話
スペインは世界のオリーブオイル生産量の約45%を占める。アンダルシアに広がるオリーブ畑の風景、農業経済、そして在住外国人が知らない収穫の現場を紹介する。
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スペインには約3億本のオリーブの木がある。国土面積50.6万km²の約5%、約250万ヘクタールがオリーブ畑だ。世界のオリーブオイル生産量の約45%を1国で担っている。
アンダルシアの風景を決めているもの
マドリードからAVE(高速鉄道)で南に向かうと、ラ・マンチャの平原を過ぎたあたりからオリーブの木が視界を埋め尽くす。特にハエン県(Jaén)は「世界のオリーブオイルの首都」と呼ばれ、県面積の約3分の1がオリーブ畑。丘陵地帯に整然と並ぶ灰緑色の木々は、アンダルシアの風景そのものだ。
この風景は偶然ではない。ローマ帝国時代からイベリア半島ではオリーブが栽培されていた。2000年以上かけて人間が作り上げた「人工の自然」が、いまスペイン南部の景観を形成している。
収穫期の現場
オリーブの収穫は10月〜2月。この期間、アンダルシアの農村部では季節労働者が急増する。収穫方法は機械化が進んでいるが、急斜面の畑ではいまも手作業(vareo:棒でオリーブを叩き落とす)が行われる。
在住外国人がこの時期にアンダルシアの農村を訪れると、道路脇にネットを広げてオリーブを集めている光景に出会う。搾りたてのオイル(aceite nuevo)はスーパーで買うものとはまったく別の、青くて辛い味がする。
オリーブオイルの等級と価格
スペインのスーパーで買えるオリーブオイルの価格帯は大まかにこうなる。
- Aceite de Oliva Virgen Extra(エキストラバージン): 1リットル€5〜10(約800〜1,600円)
- Aceite de Oliva Virgen(バージン): 1リットル€4〜7(約640〜1,120円)
- Aceite de Oliva(精製ブレンド): 1リットル€3〜5(約480〜800円)
ただし、2023〜2024年は干ばつの影響で価格が一時2倍近くまで高騰し、スペイン国内でも「オリーブオイルが高級品になった」と話題になった。
オリーブと水問題
スペインのオリーブ農業が直面している最大の課題は水だ。伝統的なオリーブ栽培は天水(雨だけ)に頼る「secano」だが、生産性を上げるために灌漑(regadío)を導入する農家が増えた。その結果、地下水の過剰汲み上げが問題になっている。
アンダルシアでは、水利権をめぐる農家間の紛争が珍しくない。EU補助金の配分も水使用量と連動しており、オリーブ畑の風景の裏には複雑な政治経済がある。
3億本のオリーブが作る風景は美しいが、その維持には水・労働力・気候変動対策という見えないコストがかかっている。スペインに住んでいると、食卓のオリーブオイル1本の背景にある物語が少しずつ見えてくる。