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スペインの「空っぽのスペイン」——人口密度がサハラ砂漠以下の地域がEU内に存在する

スペインの内陸部には人口密度が1km²あたり8人以下の地域がある。España Vaciadaと呼ばれる過疎化現象の構造と、移住者にとっての意味を考察する。

2026-05-22
過疎化農村人口España Vaciada地方

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

スペインの人口密度は1km²あたり約94人。日本の約338人と比べると疎だが、EU平均の約106人とほぼ同じだ。だがこの平均値は嘘をつく。

カスティーリャ・ラ・マンチャ州の一部、アラゴン州テルエル県、カスティーリャ・イ・レオン州ソリア県——これらの地域の人口密度は1km²あたり8〜10人。サハラ砂漠の一部(リビア南部で約1〜2人/km²)よりは多いが、EU加盟国の中では際立って低い。

スペイン人自身がこの現象を「España Vaciada」(空っぽにされたスペイン)と呼んでいる。「空っぽになった」ではなく「空っぽにされた」——受動態に込められた怒りがある。

何が起きたか

1960年代のスペインの工業化・都市化がきっかけだ。マドリード、バルセロナ、ビルバオなどの工業都市に人口が集中し、内陸の農村から若者が流出した。これは日本の高度経済成長期と同じ構造だ。

違うのはスケールと速度。スペインの農村部は50年で人口の80%以上を失った村がある。8,000以上の自治体のうち、約5,000が人口500人以下。学校がない、病院がない、バルすらない——最後の住民が高齢者だけの村は「限界集落」を超えて「消滅集落」に近い。

España Vaciada運動

2019年、テルエル県の住民が「Teruel Existe(テルエルは存在する)」をスローガンに政治運動を始めた。2023年の総選挙では「España Vaciada」を掲げる地方政党が議席を獲得し、国政の議題になった。

要求はシンプルだ。高速道路、鉄道、ブロードバンド、医療施設を地方にも整備すること。マドリードとバルセロナに集中する予算を、内陸部にも配分すること。

これは「田舎に帰ろう」というノスタルジーではない。「インフラがなければ人は住めない。人が住めなければ国土が死ぬ」という論理だ。

移住者にとっての「空のスペイン」

España Vaciadaの地域では、不動産価格が信じられないほど安い。テルエルやソリアでは、古い一軒家がEUR 30,000〜60,000(約480万〜960万円)で売りに出ている。バルセロナの1LDKより安い。

リモートワークが可能なら、生活コストは劇的に下がる。ただしインターネット回線が不安定な地域もあり、最寄りのスーパーまで車で30分ということも珍しくない。

ロマンチックに語られる「スペインの田舎暮らし」の裏には、不便さと孤立がある。それを受け入れられるかどうかは、何を「生活の質」と定義するかによる。

静けさと広さを「豊かさ」と感じるか、「欠落」と感じるか。España Vaciadaはその問いを突きつけてくる。

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