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スペインの時計は1時間ずれている——フランコが変えた時間帯の呪い

スペインは地理的にはイギリスと同じ経度なのに、ドイツと同じ時間帯を使っている。この「1時間のずれ」が生活リズムに与える影響は想像以上に大きい。

2026-05-15
時間帯生活歴史フランコ文化

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スペインの夕食は21時から始まる。日本人が「遅い」と感じるのは当然だが、これには構造的な理由がある。スペインの時計は、本来の時間帯より1時間進んでいるのだ。

地理的にはロンドンと同じ

マドリードの経度は西経3.7度。ロンドン(西経0.1度)とほぼ同じだ。ポルトガルのリスボン(西経9.1度)はさらに西にある。つまり、地理的にはスペインはGMT(グリニッジ標準時、UTC+0)を使うのが自然だ。

ところが、スペインはCET(中央ヨーロッパ時間、UTC+1)を採用している。ドイツ、フランス、イタリアと同じ時間帯だ。

フランコがヒトラーに合わせた

この「ずれ」の起源は1940年。第二次世界大戦中、スペインの独裁者フランコがナチス・ドイツとの連帯を示すために、スペインの時間帯をドイツに合わせた。それ以前はGMTを使っていた。

戦争は終わり、フランコ政権も1975年に終わった。しかし時間帯は元に戻されなかった。EUの経済統合でフランスやドイツと同じ時間帯であることの利便性が優先され、変更の議論は何度も浮上しながら実現していない。

1時間のずれが生活に与える影響

この1時間のずれが、スペイン人の生活リズムを独特なものにしている。

日没が遅い: マドリードの夏至の日没は21時45分頃。まだ明るいのに時計は22時——という感覚。冬至でも18時近くまで明るい。

食事が遅い: 昼食は14時〜15時、夕食は21時〜22時。これは「スペイン人が夜型」なのではなく、太陽の位置と時計がずれているために、体感的な時間で生活しているだけだ。14時のランチは太陽的には13時のランチだ。

睡眠時間が短い: スペイン人の平均睡眠時間はEU平均より40分短いとされる。夕食が遅いため就寝も遅くなるが、仕事の始業時間はEU標準と大差ない。結果、朝が辛い。

「シエスタ」の誤解

スペインといえばシエスタ(昼寝)。しかし実際にシエスタを取っているスペイン人は少数派だ。

かつては14時〜17時に店が閉まり、自宅に戻って昼食+昼寝をするのが一般的だった。しかし都市部では通勤時間が長くなり、昼に自宅に戻れない人が増えた。シエスタの習慣は、特に若い世代で急速に廃れている。

ただし、14時〜17時に閉まる店は今でもある。特に地方都市や個人商店ではこのリズムが残っている。

時間帯を変える動き

2018年、スペイン政府はGMTへの復帰を検討する委員会を設置した。生産性の向上、睡眠時間の改善、ワークライフバランスの改善が期待された。

しかし、変更は実現していない。フランスやドイツとの時差が生じることによるビジネスへの影響、EU域内の時間帯統一議論との兼ね合い、そして「今の生活リズムに慣れてしまった」という慣性——変えない理由はいくつもある。

在住者の適応

日本からスペインに引っ越すと、食事と睡眠のリズムが狂う。21時に夕食を食べ始めるのに慣れるまで数週間かかる。

逆に慣れてしまうと、日本に一時帰国した時に「なぜ飲食店が22時で閉まるのか」と感じるようになる。スペインの1時間のずれは、80年前の政治的決断が今なお日常を形づくっている稀有な例だ。

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