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マルセイユはパリの対極か——フランス第二の都市の本当の顔

フランス最古の都市マルセイユの実像を人口・経済・治安・文化の切り口で解説。パリとの比較では見えない地中海都市の構造と在住日本人の生活を紹介。

2026-05-01
マルセイユ都市治安地中海移住

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マルセイユはフランスで最も古い都市だ。紀元前600年頃、ギリシャのポカイア人がマッサリアとして建設した。パリよりも数百年古い。だがフランスに住む日本人の多くは、マルセイユについて「治安が悪い」以上の情報を持っていない。

数字で見るマルセイユ

マルセイユ市の人口は約87万人。都市圏(マルセイユ=エクス=アン=プロヴァンス)では約163万人に達し、パリに次ぐ規模だ。都市圏GDPは約814億ドル(2019年、購買力平価ベース)で、フランス全体のGDPの約4.6%を占める。

経済の柱はフランス最大の港湾だ。地中海貿易の拠点として物流・石油化学・食品産業が集積している。観光業も大きく、年間500万人以上がマルセイユを訪れる。

「治安が悪い」の中身

マルセイユの治安問題を語るとき、実態と印象を分けて考える必要がある。

2023年、マルセイユでは麻薬取引に関連した殺人が少なくとも48件発生した。2024年には麻薬関連の殺人・殺人未遂が367件記録されている(2023年の418件からは減少)。10代の少年が「ヒットマン」として雇われる事件がメディアで大きく報道され、都市全体のイメージを悪化させた。

ただし、この暴力は市北部の特定地区(quartiers nord)に集中している。旅行者や在住日本人が日常的に訪れるリベラシオン、カステラン、プラド周辺の治安は、フランスの他の大都市と大きく変わらない。マルセイユ全体が危険だという認識は、統計的には正確ではない。

貧困率26%——もう一つの断面

マルセイユの貧困率は26%(2021年)。フランス全国平均の約15%を大きく上回る。都市の南部と北部で所得格差が大きく、北部の一部地区では失業率が40%を超える。

この構造は都市計画の歴史と結びついている。戦後、北アフリカ——特にアルジェリア——からの移民が北部に集住し、公営住宅(HLM)が大量に建設された。半世紀以上経った現在も、北部は「cite(団地)」の文化と経済が支配的だ。

パリとの「距離感」

パリとマルセイユの関係は、東京と大阪の関係に似ているとよく言われるが、実態はもっと遠い。TGVで3時間強。文化的にも、マルセイユは「フランスの中の地中海世界」という独自の位置にある。

言葉もパリとは異なる。マルセイユ訛り(accent marseillais)はフランス人なら即座に聞き分けられるほど特徴的で、母音が開き、語尾が上がる。食文化もブイヤベースに代表される地中海料理が中心で、バターよりオリーブオイル、クリームよりトマトの世界だ。

日本人コミュニティ

在マルセイユ日本国総領事館の管轄区域(プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地方を含む)には約3,000人の日本人が在住している。パリの1万人超と比べると規模は小さいが、エクス=アン=プロヴァンスの大学に留学する日本人学生や、南仏のワイン・オリーブオイル産業に関わる日本人も一定数いる。

パリに比べて家賃は大幅に安い。マルセイユ中心部(1区〜7区)の50m2のアパルトマンで月600〜900EUR(約96,000〜144,000円)程度。パリの同条件が1,200〜1,800EUR(約192,000〜288,000円)であることを考えると、半額近い。

「第二の都市」という呼び方の限界

マルセイユを「フランス第二の都市」と呼ぶこと自体が、パリを基準にした序列の中でしか都市を見ていないことを意味する。マルセイユは2,600年の歴史を持つ地中海の港湾都市であり、パリのミニチュアではない。治安の問題も貧困も、この都市固有の歴史と地理から生まれている。「パリの代わり」ではなく「マルセイユそのもの」として見たとき、この都市の輪郭が初めてはっきりする。

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