フランスの補足医療保険Mutuelle——加入義務と選び方
フランスの医療費は公的保険で70%カバーされますが、残り30%をカバーするMutuelle(補足医療保険)が実質必須です。加入義務・選び方・費用を解説します。
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フランスの公的医療保険(Sécurité Sociale)は医療費の約70%をカバーします。残り30%は自己負担——と聞くと「まあ払えるか」と思いがちですが、歯科治療でEUR 800(約128,000円)、眼鏡でEUR 400(約64,000円)かかると、30%でもかなりの出費になります。この残りをカバーするのがMutuelle(ミュチュエル)です。
Mutuelleとは何か
Mutuelle(正式にはComplémentaire Santé)は、公的医療保険の自己負担分を補填する民間の補足医療保険です。日本にはない制度で、フランス独自の二階建て医療保険システムの「二階」にあたります。
一階:Sécurité Sociale(公的保険)→ 医療費の約70%をカバー 二階:Mutuelle(補足保険)→ 残りの約30%をカバー
Mutuelleがあれば、多くの通常の医療行為で自己負担がゼロまたはごく少額になります。
加入義務
2016年以降、フランスの全ての民間企業は従業員にMutuelleを提供する義務があります(ANI法)。保険料は雇用主が最低50%を負担します。
つまり、フランスで雇用されている場合、Mutuelleは自動的に加入させられます。自分で選ぶ必要はなく、入社時に会社指定のプランに加入するのが一般的です。
自営業者、フリーランス、学生、退職者は自分でMutuelleを選んで加入します。義務ではありませんが、加入しないと医療費の自己負担が高くなるため、実質的には必須です。
費用の目安
Mutuelleの月額保険料は年齢・プラン内容によって大きく変わります。
| 年齢層 | 月額保険料(目安) |
|---|---|
| 20代 | EUR 30〜60(約4,800〜9,600円) |
| 30〜40代 | EUR 50〜100(約8,000〜16,000円) |
| 50〜60代 | EUR 80〜150(約12,800〜24,000円) |
| 家族プラン | EUR 120〜250(約19,200〜40,000円) |
会社員の場合、雇用主が50%以上負担するため、実質の自己負担はこの半額以下になります。
カバー内容の見方
Mutuelleのプランを比較する際、以下のカバー率の表記を理解する必要があります。
フランスの医療費には「Base de Remboursement(BR)」という基準額があります。Sécurité Socialeが設定する公定価格で、実際の請求額とは異なることがあります。
Mutuelleのカバー率は「100% BR」「200% BR」「300% BR」のように表記されます。
- 100% BR:公定価格の100%までカバー。Sécurité Socialeの70%と合わせて自己負担ゼロ(ただし医師が公定価格を超える料金を請求した場合は差額が自己負担)
- 200% BR:公定価格の200%までカバー。専門医の「超過料金(Dépassement d'Honoraires)」にも対応
- 300% BR:高額な超過料金にも対応
パリの専門医は公定価格の2〜3倍を請求することが珍しくありません。パリに住む場合は200%以上のカバー率が安心です。
歯科と眼科——Mutuelleの真価
Mutuelleが最も役立つのは歯科と眼科です。
歯科:Sécurité Socialeのカバー率は低く、セラミッククラウン1本でEUR 600〜1,200(約96,000〜192,000円)のうち、公的保険で戻るのはEUR 75程度。Mutuelleで残りの大部分をカバーできます。
眼科:眼鏡のフレーム+レンズでEUR 300〜600(約48,000〜96,000円)。Sécurité SocialeのカバーはEUR 3程度(ほぼゼロ)。Mutuelleがないと全額自己負担に近い状態です。
主なMutuelle提供会社
- MGEN:公務員・教育関係者向け。加入者約400万人
- Harmonie Mutuelle:フランス最大のMutuelle。加入者約500万人
- Alan:オンライン完結型の新興Mutuelle。スタートアップ企業に人気
- LMDE / HEYME:学生向けMutuelle
外国人の加入手続き
フランスに到着してから公的医療保険(CPAM)に登録し、Carte Vitaleを取得するまでには数ヶ月かかることがあります。この間のつなぎとして、渡航前に加入した海外旅行保険や、到着後すぐに加入できるMutuelleを検討する必要があります。
AlanやWemindなどのオンラインMutuelleは、居住許可証とIBAN(銀行口座)があればオンラインで即日加入できるため、外国人にとって手続きが楽な選択肢です。