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フランスの離婚率と家族の形——PACSが変えた「結婚しない国」の家族観

フランスのPACS制度と婚外子率65%の背景を解説。結婚・離婚・事実婚の統計データから、フランスの家族構造がどう変わったかを在住者目線で紹介。

2026-05-01
PACS家族結婚離婚婚外子

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フランスで生まれる子どもの約65%は、婚姻関係にないカップルの子どもだ(INSEE、2022年)。日本の婚外子率が約2.5%であることを考えると、数字の桁が違う。フランスは「結婚しない国」なのか。答えはもう少し複雑だ。

PACSという「第三の選択肢」

PACS(Pacte Civil de Solidarité、連帯市民協約)は1999年に導入された。もともとは同性カップルのパートナーシップ制度として注目されたが、実際にはPACS締結者の圧倒的多数が異性カップルだ。

2022年の数字を見ると、婚姻が約24万1,700件、PACS締結が約20万9,800件。ほぼ拮抗している。2020年にはCOVID-19の影響で結婚式が延期された結果、PACSが婚姻を上回った——PACS約17万4,000件に対し婚姻約15万4,600件。制度開始から21年で、PACSは「婚姻の代替」としての地位を確立している。

結婚しないが、別れやすいわけでもない

「結婚しないカップルは不安定だ」という直感に反して、PACSの解消率は婚姻の離婚率より低い。2016年のデータでは、婚姻の離婚率が約55%に対し、PACS解消率は約44%だった。

この逆転には構造的な理由がある。PACSには年金の遺族給付や自動的な相続権がない。つまり、PACSを選ぶカップルは「法的な保護が薄い」ことを承知の上で一緒にいる。制度に縛られるのではなく、関係そのものの維持を選んでいるともいえる。

婚外子は「かわいそう」ではない

フランスの法律では、婚姻関係にあるかどうかで子どもの権利は変わらない。相続権も社会保障も同一だ。学校の書類でも「父の名前・母の名前」ではなく「Responsable légal 1・Responsable légal 2(法定責任者1・2)」と記載される。

日本では「嫡出子」と「非嫡出子」の区分がいまだ意識されることがあるが、フランスではこの区分自体が社会的に意味を失っている。婚外子率が50%を超えたのは2006年頃。もう20年近く「多数派」なのだから、少数派の特殊事例ではない。

カップルの72%はいまだに既婚

ただし、PACS増加の印象に反して、実際に共同生活を送るカップル全体で見ると構成比は異なる。INSEEの国勢調査データでは、フランスの1,540万カップルのうち72%が婚姻、8%がPACS、残り20%が制度なしの同棲だ。

つまり「PACSが婚姻に取って代わった」わけではない。新規に関係を制度化する場面ではPACSが台頭しているが、ストックベースでは依然として婚姻が圧倒的だ。この二重構造がフランスの家族統計を読みにくくしている。

在住日本人カップルへの影響

フランスで暮らす日本人カップルにとって、PACSは実務的な選択肢になりうる。PACSを締結すると共同納税が可能になり、所得税の世帯合算制度(quotient familial)が適用される。滞在許可証の更新時にも「安定した関係の証明」として機能する。

一方、PACSでは配偶者ビザ(vie privée et familiale)の直接的な根拠にはならない点には注意が必要だ。移民局は「結婚」と「PACS」を異なるカテゴリとして扱う場面がまだある。

制度が家族を定義するのか、家族が制度を変えるのか

フランスの家族構造の変化を見ていると、「制度が先にあって人々がそれに従う」のではなく、「人々の生活が先にあって制度が追いかけた」という順序が浮かび上がる。婚外子が増えたから法が平等を保証したのであって、法が変わったから婚外子が増えたわけではない。

日本でも事実婚やパートナーシップ制度の議論が進んでいるが、フランスの事例は「制度は生活の後追いである」ことを示している。どちらの設計が正解かは別として、フランスでは「家族の形は一つではない」という前提で社会が回っている、という事実がある。

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