パリの水道水はミネラルウォーターより安全か——水質検査データが示す事実
パリの水道水の安全性をEU基準・検査項目数・マイクロプラスチック含有量のデータから検証。ミネラルウォーターとの比較、PFAS問題、硬水対策まで在住者向けに解説。
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パリに住み始めると、まず聞かれる。「水道水、飲んでる?」。日本人の多くは最初ミネラルウォーターを買う。スーパーで1.5リットルのEvianを0.70EUR(約112円)で買い、重い袋を5階まで運ぶ。エレベーターがないアパルトマンで。
結論から言うと、パリの水道水はEU基準を満たしており、飲める。しかも、ある観点ではミネラルウォーターより「検査されている」。
検査項目数の差——60対16
EUの水道水規制は60種類以上の物質を検査対象としている。一方、ボトル入りミネラルウォーターの規制が対象とするのは16種類だ。水道水のほうが、はるかに多くの項目をチェックされている。
パリの水道を管理するEau de Paris(パリ水道公社)は、300以上の微生物学的・物理化学的パラメーターを日常的に分析している。水道水がこれほど厳しく監視されているのは、公衆衛生インフラとして位置づけられているからだ。
水源——セーヌ川と地下水の半々
パリの水道水は約50%がセーヌ川とマルヌ川の表層水、残りの約50%が地下帯水層から取水されている。表層水は浄水場で複数段階の処理を受ける。
この「川の水を飲んでいる」という事実が心理的な抵抗を生むが、処理後の水質検査で基準を満たしていることは毎日確認されている。
マイクロプラスチック——ボトル水のほうが多い
2025年にPLoS Water誌に掲載された査読済み研究によると、あるヨーロッパの都市の水道水には1リットルあたり413個のマイクロプラスチック粒子が含まれていた。多いように聞こえるが、同じ研究で検査された10ブランドのボトル入りウォーターのうち8ブランドが、これより多くのマイクロプラスチックを含んでいた。
ペットボトルから溶け出すマイクロプラスチックを考えると、「安全だからボトル水を買う」という行動は、必ずしも合理的とは言えない。
PFAS問題——「永遠の化学物質」
2025年1月、Le Monde紙がフランスの飲料水に含まれるPFAS(ペルフルオロアルキル化合物、通称「永遠の化学物質」)の存在を報じた。パリの水道水からも検出されている。
ただし、地方自治体・保健当局・学校から「水道水を飲まないように」という勧告は出ていない。現時点では規制値以下であり、Eau de Parisも継続的にモニタリングしている。PFAS問題はフランスに限った話ではなく、世界中の水道・ボトル水に共通する課題だ。
硬水という現実
パリの水道水が「まずい」と言われる最大の理由は、硬度の高さだ。炭酸カルシウム濃度が120mg/Lを超えており、「硬水(eau dure)」に分類される。石灰分が多く、コップに白い跡が残る。電気ケトルの内部にも石灰が付着する。
味の好みは個人差が大きいが、硬水に慣れない場合はBrita等の浄水ポットを使う手がある。石灰は健康に害がないが、家電の寿命には影響する。洗濯機やコーヒーメーカーには定期的にクエン酸洗浄が必要だ。
コスト比較
| 項目 | 年間コスト(1人あたり目安) |
|---|---|
| 水道水(1日2L) | 約3〜4EUR(約480〜640円) |
| ミネラルウォーター(1日2L、Evian 1.5L×0.70EUR換算) | 約340EUR(約54,400円) |
| 浄水ポット(本体+カートリッジ交換) | 約50EUR(約8,000円) |
年間コストの差は約300EUR(約48,000円)。重いボトルを運ぶ手間とプラスチックごみも含めると、水道水+浄水ポットの組み合わせは合理的な選択肢になる。
パリの水道水は「完全に安全」とも「完全に不安」とも言い切れない。ただ、データ上はボトル水と少なくとも同等か、検査項目の多さでは上回っている。味の好みと心理的な安心感をどう評価するか——それは各人の判断だ。