アロットメント——英国人が土いじりに並ぶ理由
英国の市民農園「アロットメント」文化を在住外国人の視点で解説。待機リスト数年の現実、区画の費用、英国人が農園に求めるものとは何か。
この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。
英国の住宅地を歩いていると、鉄のフェンスで囲われた小さな区画が並ぶ場所に出くわすことがある。ビニールハウスが建ち、コンポスト容器が置かれ、老人が一人で黙々と土を掘り返している。
あれが「アロットメント」だ。
150年続く待機リスト
アロットメントの起源は19世紀の産業革命時代にさかのぼる。都市に流入した労働者に食料自給の場を与えるため、地方自治体が土地を貸し出す制度が生まれた。現在は英国全土に約30万区画が存在する(英国アロットメント・レジャーガーデナーズ協会、2023年)。
問題は需要が供給をはるかに上回っていることだ。ロンドンでは人気エリアで待機リストが10〜20年というケースがある。ブライトンやブリストルでも5〜7年待ちは珍しくない。申請して音沙汰がないまま忘れた頃に連絡が来た、という話もある。
なぜこんなに人気があるのか。
GBP 50〜200の「逃げ場」
年間費用は自治体によって異なるが、標準的な区画(約250㎡)でGBP 50〜200(約9,750〜39,000円)程度。都市部のど真ん中で、土に触れられる空間としては破格だ。
英国人がアロットメントに求めているものを観察していると、「食料生産」だけではないことがわかる。仕事と家庭以外の「第三の場所」として機能している。週末に区画に来て、隣の区画の人と天気の話をして、泥を落として帰る。都市生活者が失いがちなリズムと具体性を取り戻す場所として機能している。
定年後に区画を持った老人が、毎日来ては何かを育てている光景は珍しくない。「健康のため」と言うが、それだけではないだろう。
外国人はアロットメントを持てるか
可能だ。英国の永住権や市民権は必要なく、地方自治体の住民であれば申請できる。在住外国人でも申請資格がある。
ただし待機中に引越しや帰国になった場合は権利が消える。長期在住の見込みがない人には現実的ではないかもしれない。
また、アロットメントには「規則」がある。区画を適切に管理する義務があり、雑草だらけにすると警告が来て、最終的には権利を失う。管理状態が悪い人には自治体から連絡が入るシステムだ。
都市農業とは違う文化
「アーバンファーミング」「都市農業」という言葉はトレンドとして語られるが、英国のアロットメントは流行とは無縁に、ずっとそこにある。ケールやブロッコリーを育てることがおしゃれかどうか以前に、土に触れることが日常の一部として続いている。
英国に長く住む日本人の中には、アロットメントを日本人コミュニティの拠点として活用しているグループもある。区画を複数のメンバーで借りて、週末に集まって農作業をする形だ。日本の「家庭菜園」とは違う社会的な文脈が、そこにある。