イングランド銀行はなぜ「銀行の銀行」と呼ばれるのか——300年超の金融史
1694年創設のイングランド銀行は、世界最古の中央銀行のひとつ。金利決定からポンドの発行まで、日本人が意外と知らないその役割と歴史を解説します。
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ロンドンのシティ、スレッドニードル・ストリートに立つ重厚な建物を「老いたる貴婦人(Old Lady of Threadneedle Street)」と呼ぶ慣習がある。イングランド銀行(Bank of England)のことだ。
1694年に設立されたこの銀行は、世界で最も歴史の長い中央銀行のひとつ。日本銀行(1882年創設)より200年近く先に誕生している。にもかかわらず、日本に住む私たちにとって「イングランド銀行とは何をしているところか」を正確に説明できる人は少ない。
戦争資金調達のために生まれた
設立の経緯は、現代の中央銀行のイメージとはかなり異なる。ウィリアム3世の時代、イギリスはフランスとの戦争に多額の費用を要していた。政府は資金調達に行き詰まり、民間の融資者たちが「銀行を作って政府に資金を貸す代わりに、紙幣を発行する権利を寄越せ」と提案した。これが出発点だ。
当初は純粋な民間銀行で、政府の銀行業務を担いながら自らも株主に利益を返す商業組織だった。「中央銀行」として国有化されたのは1946年のこと。
今のイングランド銀行が持つ3つの役割
現代のイングランド銀行が実際に何をしているかは、大きく3つに整理できる。
1. 金融政策の決定
9名で構成される金融政策委員会(MPC)が毎月会合を開き、政策金利(Bank Rate)を決定する。2022〜2023年のインフレ局面では、わずか2年足らずで0.1%から5.25%まで引き上げた。住宅ローンを変動金利で組んでいた人々には、月々の返済額が数万円単位で増えるほどのインパクトだった。
日本との違いが明確に出るのがこの部分だ。日本銀行が超低金利を長年維持したのとは対照的に、イングランド銀行はインフレ抑制を優先して大胆な利上げを実施した。
2. 紙幣の発行
イギリスで流通する紙幣(ポンド紙幣)のうち、イングランドとウェールズで流通するものはイングランド銀行が発行している。スコットランドと北アイルランドでは、民間銀行(RBSやダンドーク銀行など)が独自の紙幣を発行できるという、日本人には少々不思議な仕組みが残っている。
3. 金融システムの安定監視
銀行や保険会社が経営危機に陥らないよう、プルーデンス規制委員会(PRC)が監督する。2008年のリーマン・ショック後、銀行監督機能が一度分離されたが、金融危機の反省から2013年に再統合された。
「独立性」をめぐる政治と中央銀行の関係
1997年、当時の財務大臣ゴードン・ブラウン(後に首相)はイングランド銀行に金融政策の独立性を与えた。それまで金利決定は政府(財務省)が行っており、選挙前には意図的に低金利にする誘惑があった。独立性の付与は「政治家から金融政策を守る」ための措置だ。
この判断は今でも評価が分かれる。独立した中央銀行が本当に政治から自由でいられるのか、という疑問は世界各国共通のテーマでもある。
博物館として開放されている部分もある
観光の話をすれば、イングランド銀行には無料で入れる博物館(Bank of England Museum)がある。金塊を実際に持ち上げてみる体験や、歴史的な紙幣・コインの展示がある。シティを訪れた際に立ち寄る価値は十分ある。
イギリスの金融史を知ると、シティのビル群が単なるオフィス街ではなく、300年以上の制度的積み重ねの上に成立していることが見えてくる。