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Bedsit——イギリスの「6畳一間」が語る住宅階級の断面

ベッドルームとリビングが一体化した一人暮らし用の部屋Bedsit。かつてロンドンの低所得層・若者の住居だったこの形態から、イギリスの住宅階級を読み解く。

2026-05-26
Bedsit住宅一人暮らしロンドン住宅階級

この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(GBP)の金額を基準にしてください。

Bedsit。ベッドルーム(Bed)とシッティングルーム(Sitting Room)を1つにした造語で、日本で言えばワンルームに近い。ただし日本のワンルームと決定的に違うのは、元々はそういう設計ではなかったことだ。ビクトリア朝の大きな一軒家を部屋ごとに区切り、共用キッチン・共用バスルームで複数世帯に貸し出す——それがBedsitの原型だ。

Bedsitの構造

典型的なBedsitは10〜15㎡の1部屋。シングルベッド、小さな机、電気コンロ(Ring)が1口か2口、場合によっては流し台。バスルーム・トイレは廊下の先にある共用のものを使う。

戦後のロンドンでは、大きな住宅を維持できなくなった地主が1部屋ずつ賃貸に出し、Bedsitが大量に生まれた。1950〜70年代のノッティングヒル、アールズコート、ブリクストンはBedsitの密集地だった。

HMOとしての規制

現在、Bedsitの多くはHMO(House in Multiple Occupation:複数世帯入居住宅)に分類される。HMOには消防設備、共用部の清掃、最低居室面積(1人用で6.51㎡以上)などの基準があり、自治体へのライセンス登録が義務付けられている。

無許可のHMOはロンドンだけで推定1万件以上。火災リスクが高く、定期的にメディアで取り上げられる。2018年にはHMOの規制が強化され、全てのHMO(5人以上入居)で強制ライセンスが適用されるようになった。

家賃の現実

ロンドンのBedsitの家賃は月£600〜£900(約11.7万〜17.6万円)。共用バスルーム・共用キッチンでこの金額だ。同じ予算でゾーン4〜5のスタジオフラット(バス・キッチン付き個室)を探せるケースもあるが、職場への通勤時間が30分以上伸びる。

「場所を取るか、設備を取るか」というトレードオフは東京と似ている。ただし東京のワンルームには風呂・トイレ・キッチンが付いている。その基準で見ると、ロンドンのBedsitは「日本では違法建築に近い居住環境に月17万円を払う」という状況だ。

文化的な記憶

Bedsitはイギリスの文学・音楽に繰り返し登場する。The Smithsの"How Soon Is Now?"、Morriseyの歌詞に出てくる孤独な部屋はBedsitだ。作家Muriel SparkがBedsitを舞台にした小説『The Ballad of Peckham Rye』を書いている。

「Bedsit Land」という表現は、孤独・貧困・都市の匿名性を象徴する。1960〜70年代の若者文化——パンク、ニューウェーブ——はBedsitの狭い部屋から生まれた面がある。

現代の変化

近年、Bedsitの多くはフラットに改装(コンバージョン)されている。1棟の建物を5〜6室のBedsitから2〜3室のフラットに減らし、各部屋に専用バス・キッチンを設ける。家賃は上がるが、居住環境は改善される。

留学やワーキングホリデーでロンドンに来る日本人が最初に住む場所として、シェアハウスのシングルルームがBedsitの現代版と言える。共用キッチン、共用バスルーム、1部屋に自分の生活を詰め込む。その経験は100年前のロンドンの若者と構造的に同じだ。

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