イギリス人のカーペット信仰——バスルームにまで敷く国の論理
イギリスの住宅では玄関どころかバスルームにもカーペットが敷かれることがある。土足文化・断熱事情・階級意識が絡み合うイギリス独自の床材文化を読み解く。
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イギリスで家探しをしていると、物件写真でバスルームの床にカーペットが敷いてある部屋に出会う。シャワーの水が飛ぶ場所にカーペット。日本人の感覚では理解が追いつかない。しかしイギリスでは珍しくない光景だ。
なぜカーペットなのか
理由は複合的だ。
断熱: イギリスの住宅、特にビクトリア朝(1837〜1901年築)やエドワード朝(1901〜1910年築)の物件は、床下に隙間がある。コンクリートスラブではなく木造の床板で、その下は土や通気層だ。冬場、フローリングの床は素足では立てないほど冷たくなる。カーペットは事実上の断熱材だ。
土足文化: イギリスでは玄関で靴を脱がない家庭が多い。靴のまま歩くと、フローリングは傷つき汚れるが、カーペットは(見た目上は)汚れが目立ちにくい。
音: テラスハウスやフラットでは隣家・階下との遮音が重要。カーペットはフローリングより格段に音を吸収する。賃貸契約で「カーペットを維持すること」が条件に入っている物件もある。
バスルーム・カーペットの歴史
1970〜80年代のイギリスでは、バスルームにカーペットを敷くのが一般的だった。タイルの冷たさを嫌い、「柔らかく暖かい足触り」を求めた結果だ。当時は防水カーペット(ポリプロピレン素材)も販売されていた。
2000年代以降、衛生意識の変化と北欧デザインの流行でバスルーム・カーペットは減少傾向にある。しかし地方の賃貸物件では今でも残っている。内見で出会ったら「築年数が古く、リフォームがされていない」サインと読み取ればいい。
フローリング vs カーペット論争
イギリスでは「カーペットかフローリングか」は単なるインテリアの好みではなく、階級や文化的な含意を持つ。
- カーペット: 伝統的。暖かい。地方・郊外の住宅に多い
- フローリング(ラミネート含む): モダン。掃除しやすい。ロンドン・都市部の新築に多い
高級物件では無垢のオーク材フローリング + ラグ(部分カーペット)という組み合わせが主流だ。壁一面のカーペット(Wall-to-wall carpet)は「安い物件」の指標として見られることもある。
日本人が驚くポイント
- 階段にもカーペット: ほぼ全ての住宅で階段にカーペットが張られている。滑り止めの意味もある
- 退去時のカーペットクリーニング: 賃貸の退去時にプロのカーペットクリーニング(£100〜£200、約2万〜3.9万円)を求められることがある
- ダニ・アレルギー: カーペットはダスト・ダニの温床。アレルギー持ちの人はフローリング物件を選んだほうがいい
「なぜ靴を脱がないのにカーペットを敷くのか」という問いに対する答えは、「靴を脱がないからカーペットが必要」という逆の因果だ。土足で歩いても痛まず、冷たくなく、音が響かない床材——それがカーペットだった。合理的かどうかはともかく、一貫した論理はある。