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文化・社会

イギリスの階級制度、日本人には見えない場面で今も機能している

発音・学校名・食べ物の呼び方でイギリスでは階級が分かる。日本人にとって見えない壁がビジネス・住居・パーティーのどこにあるかを具体的な場面で示す。

2026-04-07
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イギリスに階級制度があることは、日本人も知っている。でもそれが「今も日常的に機能している」ことは、住んでみないと実感しにくい。

法律上の階級はない。公爵や伯爵はいるが、法的な特権はほぼない。それなのに、イギリス人同士は5分会話すれば相手の階級が分かる。日本人にはその5分間に何が起きているのかが見えない。

発音で分かる: Received Pronunciation vs Estuary English

イギリスの英語は、発音で階級が判別できる。

Received Pronunciation(RP): いわゆる「クイーンズ・イングリッシュ」。BBCのニュースキャスターが使う発音。上流階級〜上位中産階級の標準。「bath」を「バース」と発音する。「grass」は「グラース」。

Estuary English: ロンドン周辺の労働者階級〜中産階級の発音。「th」が「f」になる(「three」→「free」)。「t」が喉の奥で止まるグロッタルストップ(「water」→「wo'er」)。

各地方のアクセント: リバプール、マンチェスター、バーミンガム、スコットランド——地方アクセントは一般的に労働者階級と結びつけられる(ただしスコットランドのアクセントは別の文脈がある)。

日本人が英語を話すとき、「日本人のアクセント」として認識されるため、階級の判定対象にはならない。これは実はメリットだ。イギリス人は日本人の英語から階級を読み取れないから、先入観なしで接してくれることが多い。

学校名で分かる: Public School vs State School

イギリスで「What school did you go to?」と聞かれたら、それは学歴の確認ではなく階級の確認だ。

  • Public School(Eton、Harrow、Winchester等): 私立の名門校。年間学費£30,000〜50,000(約600万〜1,000万円)。上流階級〜上位中産階級の子弟が通う。イギリスの首相のうち約20人がイートン校出身
  • Grammar School: 成績選抜制の公立校。学費無料。中産階級の上昇手段
  • Comprehensive School: 非選抜の公立校。学費無料。労働者階級〜中産階級

日本人が「I went to a school in Tokyo」と答えると、イギリス人は階級を判定できない。これもある意味で有利に働く。

食べ物の呼び方で分かる

同じものを指す言葉が階級によって違う。

概念上流〜上位中産階級労働者階級
夕食Dinner(もしくはSupper)Tea
デザートPuddingDessert / Afters
居間Drawing room / Sitting roomLounge / Living room
トイレLavatory / LooToilet
ソファSofaSettee / Couch

「Tea」はお茶ではなく夕食を意味する場合がある。「Shall we have tea?」が「お茶しよう」なのか「夕飯食べよう」なのかは、話している人の階級で変わる。

日本人はこの区別を知らないから、どちらの単語を使っても「外国人だから分からないんだな」で済む。でもイギリス人同士では、この単語選びで互いの階級を瞬時に判定している。

ビジネスの場で何が起きるか

日本人がロンドンで仕事をするとき、階級の壁が見えにくいまま影響を受ける場面がいくつかある。

1. ネットワーキング: 金融業界のシニアポジションには、Public School出身者が多い。彼らのネットワークは学校時代からの人間関係がベースで、外部から入りにくい。日本人がこのネットワークに入れないのは「外国人だから」だけでなく、「同じ学校を出ていないから」でもある。

2. パブの選択: ロンドンのパブは実は地域と客層で分かれている。金融街(シティ)のパブはスーツ姿の中産階級以上。東ロンドンのパブは若いクリエイティブ層。同じ「パブに行こう」でも、どのパブに行くかで相手のポジショニングが見える。

3. 服装のコード: 日本人ビジネスマンはスーツを着ていれば問題ないが、スーツのブランド・仕立て・靴の種類にも暗黙のコードがある。イギリスの上流階級は「さりげなく良いもの」を着る。目立つブランドロゴは中産階級以下とみなされる。

住む場所の選択

ロンドンの地域選びは、階級構造をそのまま反映している。

  • ケンジントン、チェルシー、メイフェア: 上流階級。駐在員の中でも上級管理職向け
  • ハムステッド、イズリントン: 上位中産階級。インテリ層、メディア関係者
  • クラパム、バルハム: 若い中産階級。20〜30代のプロフェッショナルが多い
  • ブリクストン、ペッカム: 歴史的に労働者階級だが、ジェントリフィケーション(高級化)が進行中

日本人駐在員は「日本人が多いエリア」(フィンチリー、アクトンなど)に住むことが多いが、そのエリアの階級的なポジションを意識している人は少ない。だがイギリス人に「Where do you live?」と聞かれたとき、答えた地名で相手は瞬時に何かを読み取っている。

パーティーの招待状

イギリスの社交パーティーは階級ごとに分かれている。上流階級の「dinner party」に労働者階級の人が招かれることは基本的にない。

日本人は「外国人枠」として階級横断的に招かれることがある。これは逆に言えば「階級の外側にいる」から可能なことであり、イギリス人にはできない動き方だ。

ただし「招かれる」ことと「受け入れられる」ことは違う。パーティーでの会話の話題、ユーモアのトーン、食事のマナー——これらが「合っている」かどうかで、次回も招かれるかが決まる。

日本にも階級はあるのか

日本人は「日本に階級はない」と思いがちだが、イギリスの視点から見ると、日本にも明確な社会的階層がある。学歴、勤務先の企業名、住んでいるエリア——これらは日本社会の中でも「格付け」として機能している。

ただし日本の階層は「見えにくい」設計になっている。スーツは全員同じようなものを着るし、発音で出身地は分かっても社会的地位は分かりにくい。名刺を交換して初めて「あ、大企業の部長か」と分かる仕組みだ。

イギリスは逆に「見える」設計になっている。5分の会話で分かるように作られている。この「可視性の差」が、日本人にイギリスの階級制度が見えにくい最大の理由だと思う。

見えないだけで、今も機能している。そしてイギリスに住む日本人は、見えないまま、その中を歩いている。

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