グラマースクールは「機会の平等」か「格差の固定」か——イギリスの学校選抜制度
イギリスには国公立でありながら入試がある「グラマースクール」が残っています。選抜制か総合制か——この論争は、教育観だけでなく階級観とも深く絡み合っています。
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11歳で受ける試験が、その後の人生を大きく左右する。
イギリスには「グラマースクール(Grammar School)」と呼ばれる、国公立でありながら学力選抜を行う中等学校が現在も約163校(2024年時点・イングランド)存在する。11プラス(11+)と呼ばれる試験に合格した子どもだけが入学でき、大学進学率は高い。
一方、試験のない「コンプリヘンシブ・スクール(Comprehensive School)」が大多数を占める。
制度の歴史
グラマースクールの起源は中世に遡るが、現代的な議論は1960〜70年代に始まる。当時の労働党政府は「選抜制は格差を固定する」として、ほとんどの地域でグラマースクールを廃止しコンプリヘンシブ化を進めた。しかし、ケント、バッキンガムシャーなど一部の自治体では選抜制が残り、今に至っている。
なぜ論争が続くのか
支持派の主張は「能力のある子に最大限の機会を与える」だ。親の収入に関係なく、頭のいい子が良い教育を受けられる——これを「真の機会の平等」と呼ぶ人がいる。
批判派は真逆のことを言う。「実際には中産階級の子どもばかりが受かっている。11プラス対策塾にお金を使える家庭の子どもが有利で、経済的に恵まれていない子どもは試験の準備すらできない」というのだ。
データを見ると、グラマースクールに通う生徒の無償給食受給率(貧困家庭の指標として使われる)は低く、中産階級以上の子どもが多数を占める傾向がある。これは格差固定の証拠だ、と批判派は言う。
11歳の試験が持つ重み
11プラス対策が過熱している地域では、5〜6歳から準備を始める家庭もある。週末の模試、専門塾、模擬問題集。試験があるグラマースクール設置地域では、これが中産階級の「標準的な」子育てになっている。
合格・不合格が出た後の家族の様子を描いた小説や映画がいくつかある。「落ちた子ども」のショックと、親のプレッシャーが可視化される場面は、この制度の持つ心理的重さを物語っている。
日本からの視点
日本でも中学受験はあるが、それは主に私立進学校を対象としたものだ。国公立の小学校から入試なしで進む公立中学が基本となっている点でイギリスとは異なる。
グラマースクール論争を知ると、イギリスが「公教育に選抜を混在させる」という独特の選択を続けてきた理由が少し見えてくる。国が制度を統一できない背景には、地方自治の伝統と、教育に関する根深いイデオロギーの対立がある。
子どもを持つ在住者は、居住地のグラマースクール有無を早めに確認しておくのが現実的だ。地域によって教育環境はかなり異なる。