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Right to Roam——イギリスで他人の土地を歩ける「散歩の権利」の歴史

イギリスでは法律で「他人の土地を歩く権利」が認められています。Right to Roamの歴史、Countryside and Rights of Way Act 2000の内容、実際の歩き方を解説します。

2026-05-02
散歩法律自然

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他人の所有する土地に断りなく入り、歩き回り、景色を楽しんで帰ってくる。日本なら不法侵入で通報されてもおかしくない行為が、イギリスでは「権利」として法律で保護されています。

Right to Roamとは

Right to Roam(散歩の権利、公衆通行権)は、私有地であっても一定の条件下で公衆がアクセスできる権利です。

イングランドとウェールズでは「Countryside and Rights of Way Act 2000(CRoW Act)」により、登録された「Open Access Land」(山地、荒野、ヒース、ダウンランド)を徒歩で自由に歩く権利が認められています。

スコットランドはさらに踏み込んでおり、「Land Reform (Scotland) Act 2003」により、ほぼ全ての土地と内水面へのアクセスが認められています。農地、森林、河川、湖——所有者に許可を求める必要はありません。

歴史——キンダー・スカウト不法侵入事件

この権利は自然に成立したものではありません。長い闘争の歴史があります。

1932年4月24日、マンチェスターの工場労働者約400人がピーク・ディストリクト国立公園内のキンダー・スカウト(Kinder Scout)の丘に集団で「不法侵入」しました。当時、この丘は私有地で、地主が狩猟(グラウス・シューティング)のためにアクセスを制限していました。

労働者たちの主張は明快でした。「週6日工場で働く我々が、日曜日に丘を歩く権利を、鳥を撃つためだけに土地を所有する人間に奪われるのは不当だ」。

5人の参加者が逮捕・投獄されましたが、この事件は世論の支持を集め、第二次世界大戦後の1949年「National Parks and Access to the Countryside Act」、そして2000年のCRoW Actへとつながりました。

Open Access LandとPublic Footpath

イングランドとウェールズのOpen Access Landは国土の約8%、約100万ヘクタール。山地、荒野、ヒース、ダウンランド、コモンが対象で、農地・庭・鉄道用地・軍用地は含まれません。

それとは別に、約14万マイル(約22.5万km)のPublic Footpath(公衆歩行路)が登録されています。農家の畑の真ん中に道標(Fingerpost)が立っていて、堂々と歩ける。作物の間を抜ける細い道、牧場の柵を越える木製のスタイル——これがイギリスの田舎の散歩風景です。土地所有者がこの道を閉鎖することは法律で禁止されています。

スコットランドはさらに自由

スコットランドの「Land Reform (Scotland) Act 2003」は、ほぼ全ての土地と内水面へのアクセスを認めています。徒歩・自転車・乗馬での通行、河川や湖でのカヌー・水泳、軽量テントでの野営まで。ゴミを持ち帰る、ゲートは閉める、農作物を踏まない——責任ある行動が条件ですが、日本の感覚からすると驚くほど自由です。

在住者の楽しみ方

Ordnance Surveyのアプリ(年£29.99≒約5,850円)を入れると、Open Access LandとPublic Footpathが地図上に表示されます。ロンドンからのアクセスが良い入門ルートとして、Chilterns(北西へ電車30分)のフットパスや、South Downs Wayの区間歩きがあります。「土地は誰かが所有するが、風景は全員のものだ」——この思想を体感できるのは、イギリスで暮らす特権の1つです。

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