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High Streetの死と再生——イギリスの商店街が空き家になった構造的理由

イギリスの町の中心であるHigh Streetがシャッター通りになっている。Amazon・パンデミック・ビジネスレートの三重苦と、再生を試みる自治体の実験を追う。

2026-05-20
High Street商店街空き家小売業都市再生

この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(GBP)の金額を基準にしてください。

イギリスの町にはたいてい「High Street」がある。メインストリートの意味で、銀行・郵便局・パン屋・肉屋・チャリティショップが並ぶ。日本の商店街に相当する空間だ。

2024年、イギリスのHigh Streetの空き店舗率は約14%。ロンドンを除く地方都市ではさらに高く、20%を超える町もある。5軒に1軒がシャッターを閉めている計算だ。

3つの構造的要因

1. Eコマースの侵食

イギリスのオンライン小売比率は約27%(2024年、ONS)で、日本の約14%を大きく上回る。Amazon UKに加え、Tesco・Sainsbury'sのオンラインスーパー、ASOS・Boohooのファストファッション——物理店舗に行く動機が減り続けている。

2. ビジネスレート(事業用固定資産税)

イギリスの商業物件に課されるBusiness Ratesは、売上に関係なく物件の「推定賃料」に基づいて課税される。High Streetの好立地にある店舗は、売上が減っても税負担が変わらない。この逆進的な構造が、利益の薄い個人商店を圧迫している。

2023年、イギリス政府はBusiness Ratesの軽減措置(75%割引)を小売・飲食・レジャー業に適用したが、恒久的な制度改革には至っていない。

3. パンデミックの加速効果

COVID-19のロックダウンでリモートショッピングが習慣化し、High Streetへの来客数が恒久的に減少した。ロックダウン後も元の水準には戻らず、「一度Eコマースに移行した消費者は戻らない」という不可逆性が確認されている。

再生の実験

一方で、High Streetを再定義しようとする動きもある。

  • 住居への転用: 空き店舗をフラット(アパート)に改装。Permitted Development Rights(開発権の簡略化)で商業→住居の転用が許可制から届出制に変更されたケースがある
  • コミュニティスペース化: 地元のアーティストやスタートアップにHigh Streetの空き物件を低家賃で貸す「Meanwhile Use」(暫定利用)
  • マーケット化: 週末のファーマーズマーケットやクラフトマーケットでHigh Streetに人を呼び戻す

マーゲートやヘイスティングスのような海辺の町では、安い物件を求めてアーティストやクリエイターが集まり、結果としてHigh Streetが「ギャラリー通り」として再生した例もある。

日本の商店街との比較

日本の地方商店街もシャッター化が進んでいるが、構造は微妙に異なる。

  • 日本: 大型ショッピングモールの郊外出店 + 高齢化 + 後継者不足
  • イギリス: Eコマース + ビジネスレート + パンデミック

共通するのは「車社会化」と「消費の効率化」が物理的な商業空間を不要にしていくという潮流だ。

日本人在住者にとって、地元のHigh Streetは「その町の健康状態のバロメーター」だ。引っ越し先を検討するとき、High Streetの空き店舗率を見ると、その町の経済的な活力がおおよそわかる。シャッターが3割を超えているHigh Streetは、公共サービスの質にも影響が出ている可能性が高い。

High Streetの衰退は小売の問題ではなく、コミュニティの物理的な中心が消失する問題だ。イギリスはその再構築を模索する実験場になっている。

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