チャイムが聞こえたら走れ——英国のアイスクリームバンが続く理由
英国の街角を走るアイスクリームバン(移動販売車)は1950年代から続く文化だ。Mr Whippyに代表されるソフトクリームと、近代的なフードトラックブームの中でも生き残る理由を解説する。
この記事の日本円換算は、1GBP≒197円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
英国の夏、住宅街を走るバンからチャイム(「グリーンスリーブズ」のメロディが多い)が流れてくる。子どもたちが走り出す。大人も財布を持って出てくる。アイスクリームバンだ。
日本ではほぼ見かけない移動式アイスクリーム販売車が、英国では今でも夏の風景の一部として機能している。
Mr Whippyとソフトクリームの起源
英国のアイスクリームバンで有名なのが「Mr Whippy」ブランド。ソフトクリームとフレーク(薄いウエハースチョコ)を組み合わせた「99フレーク」は英国夏の定番だ。料金はロケーションによって異なるが、£2〜£4(約394円〜788円)程度。
「99」という名称の由来は諸説ある。昔のイタリアのギャング(アイスクリームバン業界はイタリア移民が多かった)が99ペンスだったとか、英国王室の護衛が99人だったとか、確定的な説はない。
ソフトクリームの機械自体は1950年代にアメリカから輸入されたものが原型で、それをバンに搭載して街を走る形式が英国で独自に発展した。
騒音条例とチャイムの制限
実は英国でもアイスクリームバンのチャイムに関する規制がある。
英国の騒音法では、バンが一か所に停車中にはチャイムを鳴らしてはいけない(走りながら鳴らすのは可)、午後8時以降は禁止、などのルールがある。また音量にも制限がある。
これを知らずに長時間チャイムを鳴らしたバン業者が罰金を受けた事例が報告されているが、実際のところ夏のレジデンシャルエリアでは夕方でもチャイムが聞こえることは多く、厳密な執行は難しい状況が続いている。
アイスクリームバン業者の経済
アイスクリームバンのフランチャイジーやオーナーの収入は夏に集中する。天候に左右される商売で、雨の夏は大打撃だ。
バン1台あたりの年収は公式統計がなく、業界内の個人差が大きい。「晴れた日に繁盛する公園前の定位置を持つ業者」と「住宅街を流すだけの業者」では収益が大きく異なる。
近年はフードトラックブームの中で、高級ジェラートやアーティザンアイスクリームのバンも増えている。Mr Whippy系の伝統バンと競合しつつも、層が違うため共存している。
在英日本人と「夏の音」
英国に住む日本人から「アイスクリームバンのチャイムを聞くと英国に来た実感がある」という感想をよく聞く。「英国の夏の音」として記憶に残る体験の一つだ。
公園でのんびりしていると自然と出会える。ハイドパーク、リージェンツパーク、グリーンパークなどの大型公園には夏の週末に必ず数台のバンが出る。
チョコレートフレーク刺さりのソフトクリームを手に芝生に座る——それだけで「英国の夏を経験した」気分になれる。