英国の家主・借家人法——権利と紛争解決の現実
英国の賃貸借関係を規定する法律の基本を解説。テナントの権利、保証金保護制度、立ち退き手続き、紛争時の相談先まで在住外国人向けに整理。
この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。
英国の賃貸市場に飛び込んで驚くことのひとつが、借家人の権利の強さだ。日本では家主側に有利に見えることも多いが、英国法では借家人保護が法律で細かく規定されている。知らないと損をする制度も多い。
保証金は必ず「保護」される
2019年の「Tenant Fees Act(テナント手数料法)」施行以降、イングランドとウェールズでは保証金(デポジット)に上限が設けられた。年間家賃がGBP 50,000(約975万円)未満の場合、保証金は家賃5週間分以内に制限される。
さらに重要なのが「テナント・デポジット保護制度(TDP)」だ。家主は入居後30日以内に、政府が認定した3つのスキームのいずれかに保証金を預けることが義務付けられている。
- Deposit Protection Service(DPS)
- MyDeposits
- Tenancy Deposit Scheme(TDS)
家主がこれを怠った場合、テナントは裁判所に申請して保証金の1〜3倍の損害賠償を請求できる。これは実際に認められることがある制度で、知っているだけで交渉力が変わる。
退去時に保証金が不当に差し引かれた場合は、各スキームの紛争解決サービスを通じて無料で調停を申請できる。弁護士を使わずに解決できる仕組みだ。
家主が部屋に入れる条件
英国法では、家主が事前通知なしにテナントの部屋に入ることは原則として違法だ。緊急事態を除き、入室の24時間前以上の通知が必要とされている(Landlord and Tenant Act 1985)。この権利を知らずに、家主が突然やってきても断れないと思い込んでいる外国人テナントは少なくない。
立ち退き——Section 21とSection 8
家主がテナントを退去させる方法は主に2つある。
Section 21(ノーフォルト・エビクション): 家主が理由を示さずにテナントに退去を求めることができる制度。2024年に施行予定だった廃止が延期され、イングランドでは2025年以降に廃止される見通し(Renters Reform Bill)。執筆時点での法的状況は変動している。
Section 8: 家賃滞納や契約違反など、具体的な理由がある場合に使われる。
実際に強制退去させるには裁判所命令が必要で、手続きには数ヶ月かかる。家主が「今すぐ出て行け」と言っても、テナントは裁判所命令なしに退去する義務はない。
困ったときの相談先
英国には借家人向けの相談機関が充実している。
- Citizens Advice: 無料の法律・権利相談。全国に支部がある
- Shelter: 住居問題専門の慈善団体。電話・オンライン相談あり
- Local Council: 居住地の地方自治体。ハウジングオフィサーへの相談窓口がある
言語の壁がある場合、Citizens AdviceやShelterには通訳サービスを使った相談ができる支部もある。問題が起きたときに「どこに相談すればいいかわからない」で泣き寝入りするのは、知識があれば避けられる。
賃貸契約書にサインする前に内容を理解すること、保証金が正しく保護されているか確認すること——この2点だけでも、英国での賃貸トラブルの多くを防げる。