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National Insurance(NI)——イギリスの社会保険料の仕組みと在住者への影響

イギリスのNational Insurance(NI)の仕組みを解説。Class別の保険料率、NI番号の取得方法、日英社会保障協定、在住日本人が知るべきポイントまで。

2026-05-04
National Insurance社会保険NI番号

この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(GBP)の金額を基準にしてください。

イギリスで初めての給与明細を見て「NIって何?」と思った在住日本人は多い。Income Tax(所得税)とは別に差し引かれるNational Insurance contributions(NIC)。日本の社会保険料に相当するが、仕組みも用途もかなり異なる。知らないまま放置すると、将来の年金受給や一時帰国後の手続きに影響する。

National Insuranceとは

National Insurance(NI)は、1948年に導入されたイギリスの社会保障制度の財源だ。NHS(国民保健サービス)、State Pension(国家年金)、失業給付などの原資になる。

NICは所得税とは別に計算され、給与から天引きされる。日本の厚生年金・健康保険料に近いが、イギリスでは医療費(NHS)の自己負担がそもそも原則無料なので、NICの「恩恵」が見えにくい。

NI番号(NINo)の取得

イギリスで就労するには、NI番号(National Insurance Number)が必要だ。形式は「AB 12 34 56 C」のようなアルファベット+数字の組み合わせ。

NI番号の申請は、イギリスに到着後、就労権があることを確認した上でHMRC(歳入関税庁)に電話(0800 141 2075)またはオンラインで申請する。申請から番号の発行まで通常4〜8週間かかる。

NI番号がなくても就労自体は可能だ。雇用主に「申請中」と伝えれば、仮のNI番号なしで雇用を開始できる。ただし、番号が届いたら速やかに雇用主に通知する必要がある。

Class別の保険料率

NICは「Class」で分類され、雇用形態によって適用されるClassが異なる。

Class 1(雇用者向け): 2024/25年度の場合、年収£12,570超の部分に対して従業員負担8%、雇用主負担13.8%。年収£50,270超の部分は従業員負担2%に下がる。

例えば年収£35,000(約683万円)の場合、従業員のNIC負担は年間約£1,794(約35万円)。これに所得税が加わるので、手取りは約£27,000(約527万円)前後になる。

Class 2(自営業者向け): 年間利益が£12,570超の場合、週£3.45(年間約£179、約3.5万円)の定額。

Class 4(自営業者向け): 年間利益£12,570超の部分に対して6%、£50,270超の部分に対して2%。

Class 3(任意加入): 週£17.45(年間約£907、約17.7万円)。NICの積立期間を自主的に増やすための任意払い。

State Pension(国家年金)との関係

NICを支払う最大の目的は、State Pensionの受給資格を得ることだ。

2024/25年度のフルState Pensionは週£221.20(年間約£11,502、約224万円)。フルで受給するには35年分のNIC積立が必要。最低10年分の積立がないと1ペニーも受給できない。

在住日本人にとって重要なのは、日英社会保障協定の存在だ。この協定により、日本とイギリスの年金加入期間を通算できる。例えば、イギリスで15年、日本で20年の合計35年分で、両国それぞれの年金を受給できる可能性がある。

ただし、通算できるのは「加入期間」であり、「金額」ではない。イギリスのState Pensionの額は、イギリスでのNIC積立期間に応じて按分される。

帰国後の注意点

イギリスを離れた後もNICの任意加入(Class 3)を続けるかどうかは、重要な判断だ。

過去のNIC不足分(Gap)は、通常過去6年分まで遡って補填できる。1年分の補填費用は約£800〜900(約15.6万〜17.6万円)。35年分をフルで積むと、年間約£11,500のState Pensionが生涯受給できる。投資対効果としては悪くない。

ただし、イギリスのState Pension受給開始年齢は現在66歳で、2028年までに67歳に引き上げられる予定。さらに68歳への引き上げも議論されている。受給開始が遅れるリスクは考慮すべきだ。

NIとIncome Taxの違い

NIとIncome Taxは別々の制度だが、給与明細では一緒に差し引かれるため混同しやすい。

Income Taxはイギリスの一般財源に入り、国防、教育、インフラなど幅広い用途に使われる。一方、NICはNational Insurance Fund(国家保険基金)に積み立てられ、主に年金と社会保障給付に充てられる。

ただし実態としては、NICの収入の一部がNHSの財源にも回されており、「NICは年金専用」と言い切れない面がある。2022年にはNICの税率が一時的に1.25%引き上げられ、その増収分はNHSと介護(social care)に充てられた(Health and Social Care Levy)。この引き上げは同年中に撤回されたが、NICが実質的に「第二の所得税」として機能している側面を浮き彫りにした。

よくある誤解

「NI番号がないとNHSを使えない」——これは誤りだ。NHSの利用資格はOrdinarily Resident(通常居住者)であるかどうかで判断され、NI番号の有無とは関係ない。ビザで合法的にイギリスに居住していれば、NI番号がなくてもGP(家庭医)に登録できる。

「NICは全て自分の年金に積み立てられる」——これも正確ではない。NICは賦課方式で、現在の支払いは現在の受給者の年金に充てられる。自分の支払いが将来の自分の年金に直接積み立てられるわけではない。

NICの仕組みは一見複雑だが、核心は「将来の年金受給資格を積み立てている」という点だ。イギリスでの滞在が短期か長期かによって、任意加入や日英協定の活用を検討する価値がある。給与明細のNIC欄を「よく分からない天引き」のまま放置するのは、もったいない。

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